第28話 森の中にて

 その道中、簡単な地理の説明を受ける。


 この都市は辺境と言われる場所で、大陸の南西に位置する。


 先ほどの説明通り、南側には山があり、その手前には川や森がある。


 東に向かえば王都があり、西に向かえばダンジョンがある。


 そして北に向かうと、大きな森があった。


「おおっ、でかい森だな。フレイムベアーがいた森より木々が多いし」


「そ、それは……そうに決まってるじゃない……ど、どうなってるのよ?」


「ん? どうした?」


「わ、私の全力疾走についてくるどころか、まさか私の方が疲れちゃうなんて……」


 そういや、特に気にしてなかったな。

 多分、この身体にも慣れてきたってことだと思うが。

 ここにくるまで、一度たりとも止まっていない。


「それは気づかなかった。いや、気を使えなくてすまない。つい、全力で走るのが楽しくなってしまった」


「ふぅ……別に良いわよ、私も全力で走れて気持ちよかったし。ただ、どんなステータスをしてるのよ?」


「あぁー……それは」


「いや、 言わなくて良いわ。それは、おいそれと簡単に教えるものじゃないから」


 ……別にカルラなら教えても良い気がする。

 ハクのことも教えてくれたし、会ったばかりだが信用できる人だと思う。


「別に教えても構わないよ。今度、ステータスでも見せようか?」


「へっ? ……いいの?」


「ああ、カルラなら平気だろう」


「そう……それじゃそうさせてもらうわ……フンフフーン〜」


 カルラは機嫌がよさそうに鼻歌を歌い始める。

 そのまま、俺たちは森へと入っていく。

 森の中は、全体的に大きな木が生っていた。

 そのおかげか木と木との間は空いており、人が動き回る分には問題なさそうだ。


「そういえば、まだコカトリスの説明を受けてないな」


「そういえば肝心なことを言ってなかったわね。コカトリスは、蛇と鶏が合体したような姿の魔獣よ。雄鶏だけがその姿で生まれ、雌鶏は割と普通の状態で生まれるわ。そして、元々の数が少ない」


「つまり、雄だけ特殊ってことか」


「そうよ。そして、雌が卵を産む時になると雄は凶暴化して暴れまくるのよ。卵を守るため手当たり次第に生き物を殺してしまう。それこそ、産んだ雌が逃げてしまうくらいに」


「それは生き物としては当然だな。というか、少ないのに倒して良いのか?」


「ええ、その通りよ。ただ……頭が悪いから、ついでに雌を殺したり卵を破壊したりもしちゃうのよ」


「な、なに? ……なるほど、討伐が必要なわけだ。結局、自分で個体数を減らしてる。それに、他の生き物も殺してしまうし」


「そういうこと」


 話しながらも軽快に森の中を歩いていく。

 驚くほど静かで、魔物や魔獣が見当たらない。


「森を歩いているが生き物が見当たらないのも、コカトリスが原因か?」


「ええ。魔獣は近づかないし、魔物はすぐにやられるわ。あと、今は余計な戦いはしたくないから私が避けてるだけ」


「ん? 避けてる?」


「エルフの私は風魔法を得意とするのよ。自分の半径二百メートルくらいに風の結界を張ってて、そこに生き物が入ったらすぐにわかるわ。それこそ、大まかな大きさとかもね」


「へぇ、めちゃくちゃ便利だな」


 それなら奇襲も防げるし、戦いを避けることもできる。

 見たところ背中に弓を背負っているし、斥候役としては理想的な能力だ。


「そうでもないわよ。魔法を維持するは大変だし。まあ、私くらいになれば楽勝だけどね……ん? この反応は……奴がいるわ、一回止まって。ここからは、慎重に……というか、タツマは狩人でもしてた?」


「ん? ああ、以前は、山で狩りをするような生活をしていたよ」


「なるほど、そういうことね。道理で足音も聞こえないし、気配を消すのも上手いわけだわ。前衛タイプだし、私とパーティーを組むのは相性が良いわ」


「まあ、親父さんには散々叩き込まれたしなぁ」


 親父さんには足音がするたびに叩かれたり、目隠しをした状態で山に放り出されたりした。

 ただ父親から受けた虐待と違って、そこには愛があった。

 受けた側は、そういうのはすぐにわかる。


「ふふ、良い師匠がいたみたいね。さて……それじゃあ、行くわよ。準備はいいかしら?」


「ああ、いつでも」


 俺も出来るだけ気配を消して、カルラの後をついていく。

 そして、歩く事数分……俺にも見えてきた。

 森を抜けた開けた場所に、体長四メートルを超えるバケモノのような鶏がいる。

 尻尾部分から胴体にかけては蛇のような感じで、上半身は鶏の身体をしていた。

 その奥には卵がいくつか置いてある。


 ◇


【コカトリス】


 蛇の尻尾に、鶏の身体を持つ魔獣。

 尻尾と顔は、それぞれ独立した存在。

 口からは火を、蛇からは毒が放たれる。

 毒があるため、本来は食用に向かない。

 しかし先に尻尾を切り、それから五分ほど暴れさせると毒が抜ける。

 後は爪を切ると、肉が柔らかくなるので美味しく食べられる。


 ◇


 ……ほほう、面白い魔獣だな。


「あれがコカトリスか。雌はいないみたいだな?」


「さっきも言ったけど雌は卵を産んだら逃げるのよ、雄に殺されないために。大きさも倍くらい違うし、勝ち目はないし」


「ふむふむ。それで、俺はあいつを倒せば良いんだな? 何か気をつけることはあるか?」


「まずは、尻尾にある蛇は独立している生き物だわ。強くはないけど、毒も持ってるから注意しなさい。後は強靭な爪による攻撃と、口から火のブレスを吐くわ。さらには翼を広げたら、そこから羽の刃が飛んでくるから気をつけて」


「……わかった、ありがとう」


 頭の中でシミレーションをしつつ、その説明を聞く。

 どうやら、食眼で見た内容と差はなさそうだ。


「いざとなったら、私も出るわ。あいつは、フレイムベアーよりも強いから」


「わかった。では、行ってくるとしよう」


 覚悟を決めて、木の陰から出ていく。


 不思議な感覚だが、フレイムべアーの時と同じだ。


 油断も過信もしていないが、恐怖は特に感じなかった。

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