第27話 焦燥する男の影

 その後、お昼ご飯を一緒に食べつつ話し合いをして、ハクは置いてくことにした。


 いくら最強の魔獣とはいえ、今から行く場所に連れて行くのは危険だからと。


 ハクにも何とか納得してもらい、預けられそうな場所を訪ねることにする。


 それは、俺が一番信頼しているアリアさんしかいない。


「ふむ、そういうことか。ああ、私でよければ面倒を見よう。言葉がある程度わかる獣人のカレンもいるしな」


「ええ、そうですね。それくらいはお安い御用ですよ」


「すみません、お手数をおかけして」


「別に気にしなくて良い。これくらいなら、恩を返したうちにも入らん。それに……」


「クゥン?」


「……可愛い」


 ハクを撫でてるアリアさんから、ぽろっと言葉が漏れる。

 いや、可愛いのは貴女ですけどね……とは言えない情けない俺。

ああ、我ながらなんと情けないことか。


「はは……ありがとうございます。ハクも喜んでますよ」


「ワフッ!」


「ふんっ、どうせ似合わないさ」


「いえいえ、そんなことありませんよ」


「ちょっと、そんなことより早く行くわよ」


 すると、カルラに腕を組まれる。

 当然、女性の柔らかい部分が当たるわけで……冷静に、冷静になれ、おれぇぇぇ!


「ほほう……これはこれは、随分と仲良くなったのだな?」


「うん? まあ、気に入ったのは確かよ。とりあえず、私がついてるから安心しなさい。アリアは大人しく待ってることね」


「むむっ……」


「あらら、大変ですね」


 そんなことより、早く腕を離してくれませんかね?

 良い歳こいて情けないが、こちとら女性耐性がない。

 ……よくよく考えたら、女性に囲まれてるな。

贅沢な悩みかも知れないが、男友達とか欲しい。


「な、なんの話だ?」


「いえいえ、私は何も」


「と、とにかく、ハクを頼みます。ハク、アリアさんの言うことを聞くんだぞ?」


「ワフッ!」


「それじゃあ、行きましょうか」


「そうね! さあ、冒険に行くわよ!」


 腕を解放された俺は、兵舎を後にして都市から出ていくのだった。



 ◇


 イライラが募るなか、兵舎の中の自室を歩き回る。


「くそ、あの男め」


 着々とアリア様との関係を築きやがって。

 このままではまずい。

 ただの平民だから、どうにかなるようなことにはならないと思うが。


「ただ、あのままだとアリアが惚れてしまう可能性はある」


 俺はこんなところで終わるような男ではない。

 俺を辺境に追いやった無能共を見返すには、王女であるアリアを手に入れるのが手っ取り早い。

 うまく行けば、王族の一員になることも可能だ。


「何より、あの身体と顔を好きに出来るのは大きい」


 あの生意気な女を組み伏せたら、どんな優越感に浸れることか。

 そこまで行ってしまえば、後はどうとてもなる。

 すると、扉のノックがして腹心の部下が入ってくる。


「ローレンス様」


「クルツか、どうした?」


「今、下に例の男が来てます」


「なに? ……くそ、またアリアに会いにきたのか?」


 あの男、平民の分際で……本来なら平民などが声をかけて良い相手ではないというのに。

 俺みたいな伯爵家の者ならまだしも……図々しい奴め。


「ええ、そうみたいです。ただ、従魔を預けにきたようです。まだ幼いとかで、危険な森に連れていけないとか」


「ああ、例の狼か。確かに、まだまだ弱いだろうな」


 ふむ、その手もあるか?

 生意気なことに、あいつはフレイムベアーを倒すほど強い。

 どうにか手を打ちたいとはずっと考えていた。


「どうしました?」


「そいつを上手く使ってどうにかできるか?」


「い、いえ、テイマー協会を敵に回すのは得策ではないかと」


「……確かにそうだな」


 あそこは貴族にも平気で逆らう。


 そして、それを許される組織だ。


 それくらい、国にとって必要な組織だからだ。


 ……どうする? どうすればいい?


 俺の心は焦りにより、暗く沈んでいく。



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