第26話 ハクの正体
ギルドマスターが手続きをしている間、カルラと二人きりになる。
いや、正確にはハクもいるけど寝てるし。
「カルラ、色々とありがとな」
「べ、別に自分のためにしたことだし。せっかく面白い人間と会えたのに、遊べないんじゃつまらないもの」
「それでもだよ。なんだかんだで、早くランクを上げたかったのは事実だから。そしたら、家を買うのにも近づくし」
「ん? タツマは家が買いたいの?」
そういえば、カルラには言ってないな。
というか、まだ知り合ったばかりだし。
気安いからか、あんまりそんな感じはしないけど。
「家というか、料理屋を開きたいからさ。それで、そのまま住居として使えたら楽かなと思ってる」
「へぇ、そうなのね。確かに美味しかったけど、ハンターを目指すのかと思ってたわ」
「うーん、そこは迷いどころかな。ハンターをやりつつ、料理人をやるか。それともどちらかに比重を置くかは、これから考えるよ」
「ふーん、どちらにしろ面白そうね」
「そういえば、どうして俺によくしてくれるんだ? よくわからないが、エルフは人とあまり関わらないと聞いていたけど」
エルフは他種族を嫌っているとアリアさんは言っていた。
だから、基本的に冷たくするとか。
「まずは、私が一目置いてるアリアが信頼してるからね」
「アリアさんとはどういった知り合いなんだ?」
「そうね、結構付き合いは長いわ。理由については秘密よ」
「まあ、それなら仕方ない」
「後は、貴方が私に不躾な視線を向けないから。よくわからないけど、この見た目は人を惹きつけるらしくて……まあ、色々と面倒なことになるのよ」
「まあ、無理もない。これだけ綺麗なら視線も行くだろう」
前の世界でも、こんなに整った女性は見たことがない。
黄金比とでもいうのか、恐ろしいほどに綺麗だ。
「そう、不思議なのよね……私のことを綺麗と思いつつも、その視線に嫌な感じがしないのは」
「そうなのか? 自分ではわからないが」
「そもそも、いやらしい視線を向けないし」
「それは普通だろ。別に綺麗とか関係なく、その人が嫌がってることをするのは」
種類は違うが、俺も人の視線に晒されるのが嫌だった。
両親がいないことで憐れみの視線を向けられていたから。
成長してからは、この見た目で怖がられてきたこともある。
「……ふふ、その普通が一番難しいのよ。そもそもエルフっていうだけで、奇異な視線を向けられてきたから。貴方は、なんかそういう感じもしないし」
「ふーん、そういうもんか」
「そういうものよ……あら、きたわね」
部屋の扉が開き、ゼノス殿が戻ってくる。
「とりあえず、手続きは済ませた。後は、いつ行くかだな」
「早ければ早いだけ助かります」
「わかった。それなら、今日から試験開始だ。そうだな……期日は三日間としよう」
「了解です。後は、どこにいるとかは……」
すると、カルラが手を挙げる。
「はいはい! 私が教えるから大丈夫!」
「ほう、随分と仲良くなったもんだ。あの最速で昇格した孤高のA級ハンターが……これで、俺も一安心だ」
「違うわよ! 私だって、好きで孤高でいたわけじゃないし……」
「ああ、わかってるさ。タツマ殿、気難しい奴だが悪い奴ではないのでよろしく頼む」
「ええ、わかってます。短い付き合いですが、カルラが悪い人ではないということは」
多分だが、俺と似たような部分もあるかもしれない。
俺も見た目のせいで一人ぼっちだった時期もあった。
料理を始めてからは、そんなこともなくなったけど。
「な、なによ……ほら! 決まったならさっさと行くわよ!」
「ワフッ?」
カルラが立ち上がろうとすると、膝の上にいたハクが目を覚ます。
「あっ、この子を忘れてたわ。流石に危険で連れていけないわよ? いくら、氷狼フェンリルの子供でもね」
「うむ、いくらフェンリルの子供とはいえ……なぬっ!? こいつはフェンリルの子供なのか!?」
「クゥン?」
「……どうしてわかる?」
「私は会ったことあるから」
「……できれば教えて欲しい。俺は、この子を拾っただけなんだ」
確か神の使いとか書いてあって、面倒なことになると思って黙っていたが。
しかし、正体を知りたいのは確かだ。
俺は一体なぜ呼ばれ、この子側にいたのか。
「拾っただと? ありえん……決して、こんなところにいる魔獣ではない」
「まあ、長い歴史にはそういうこともあるわ。とにかく、軽く説明するわね。フェンリルは、神の使いとも言われる魔獣なのよ。ここから南に行くと……貴方が行った森のもっと先に山があるのよ」
「ああ、確かに山があったな」
「そこは雪に覆われた厳しい場所で、そこから出ようと凶暴な魔獣や魔物がこちら側に来ようとするのよ……それを防いでいるのが氷山の覇者フェンリル。その爪は全てを切り裂き、強靭な顎は全てを粉砕し、その氷のブレスは全てを凍らせると言われているわ。まさしく、最強の魔獣と言われるに相応しい存在よ」
「ワフッ?」
ハクは『なんの話ー?』とでもいうように、俺の周りをぐるぐるしている。
……どう見ても、ただの可愛い子犬なのだが?
「「「…………」」」
二人も同じ感想なのか、思わず三人で顔を見合わせてしまう。
「コホン……とにかく、そのフェンリルのお陰で南側の山から手に負えないような魔獣や魔物は滅多に現れないわけよ。だから、守り神って意味で呼ばれているわ。もしかしたら、神が遣わした存在じゃないかって伝説よ」
「ああ、なるほど。そういう意味で神の使いってことか」
「ふむ、そういうことだ。今はどう見ても、ただの子狼にしか見えんが」
「まあ、まだ生まれたばかりだから仕方ないでしょうね」
「キャンキャン!」
ハクが『そんなことよりお腹減った!』と俺のズボンを引っ張る。
いや、突然目の前にいたから不思議だとは思っていた。
もしかしたら、俺のために神様が寄越してくれたのかもしれない。
ただ……神の使いとは、とてもじゃないが思えないけど。
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