三章

第24話 ハンターギルドにて

……ん? 何やらくすぐったいな……。


目を開けると、ハクが俺の顔を舐め回していた。


「おはよう、ハク……顔がべちゃべちゃなんだが?」


「ハフッ」


「いや、満足気な顔をされても……とりあえず、シャワーを浴びるか。昨日は疲れて、宿に着いたらすぐに寝てしまったし」


結局お酒も入り、深夜までみんなでワイワイ楽しんでしまった。

ひとまず体を起こして、シャワーを浴びにいく。

すると、ハクがトコトコとついてくる。


「ん? ハクもシャワー浴びるか?」


「キャン!」


「わかった、おいで」


ハクを抱っこして、部屋に備わってる小さなシャワールームに入る

昨日から泊まっている宿は朝ごはん付きで、六畳くらいにベッドがある部屋だ。

日本円にして一泊五千円くらいなので、安い方だろう。


「さて、シャンプーとか石鹸があったのは助かったな」


「はふはふ………」


泡だらけになってご機嫌なハクを眺めつつ、改めて思う。

歯ブラシや簡易的な歯磨き粉、洗濯機や冷蔵庫まであるとは。

少し時代は古いが、田舎で暮らしていた俺にとっては十分だ。


「よし、シャワーで流すぞー」


「ククーン……」


全体を揉んでよく洗い流してやる。

このシャワーも魔石を利用して作られたとか。

中に水魔法が入った魔石があり、スイッチを押すと出てくる仕組みになっている。


「いやー、風と火の魔石を使ったドライヤーもあるっていうんだから便利だよなぁ」


「キャン!」


「おっ、もう良いか。それじゃあ、俺もささっと洗って……」


自分も洗い終えたら、タオルでしっかり拭く。

その後は備え付けのドライヤーを使い、自分とハクを乾かしていく。


「ハフ……」


「ああ、気持ちいいな」


こうして生活基準が大差ないと、はっきり言って助かる。

これで狩りをしたり、料理をすることに専念できるし。



準備を済ませたら、一階に行って朝食を食べる。


シンプルな味のスープに、固いパンとサラダ……まあ、値段的に文句は言えない。


「ククーン……」


「あらら、うちの子は舌が肥えちゃったか。俺が美味いものを食わせすぎたな。ただ、残すことは許さないぞ?」


「ワフッ」


不満そうではあるが、ハクが残さず食べきる。

それが済んだら、ハンターギルドに向かう。

幸い依頼達成は後付けでも良いので、カードを見てもらい討伐したことを確認してもらう。


「こ、こんなに依頼を? ゴブリンが10体以上に、オークまで。それに森の奥にある素材まで……あそこには最低Cランクじゃない危険だと言われているのに」


「えっと、何かまずかったでしょうか? 例えば、そのランク以下は入ってはいけないとか。ハンタールールには、確か自分のランクより二個上のは受けられないとかは見たんですけど」


「いえ、確かに推奨はしませんが、ハンターギルドは自己責任な部分もあるので。立ち入り禁止区域でないなら、本人が行きたいと言えば止める権利はないです。もちろん、ランクが足りないので取った素材は買い取れない場合もありますが」


「あっ、それなら良かったです。買い取れないものは、いずれランクが上がった時に持ってきますね」


お金は急務だし、本当なら買い取って欲しいが仕方がない。

そうなると、地道にコツコツとランクを上げるしかないか。

すると、周りが騒ついていることに気づいた。


「あっ! タツマだっ、おはよー! ハクもね」


「この声は……おはよう、カルラ」


「キャン!」


振り向くと、金髪の美少女……もとい、エルフのカルラがいた。

相変わらず、みた目は十代後半にしか見えない。


「どうしたの? ……って、アンタのハンターランク低いわね?」


「いや、俺は新人だし」


「あの森から帰って来れるのに新人とかありえないわ。これじゃあ、一緒に依頼が受けられないじゃない」


「……一緒に依頼?」


「えっと、ルールブックに書いてあるんだけど……確か、ランクが二つ以上ある場合はパーティーを組めないんだったような。なんか、不正がどうたらとか……人間のルールは細かくてよくわかんないわ」


「へぇ、そんなルールが……あの、受付のお姉さん?」


俺が振り返ると、受付のお姉さんが固まっている。

そして、いつの間に人々が集まっていた。

その視線は、カルラさんと俺に向けられている。


「A、Aランクハンターのカルラさんとお知り合いなのですか?」


「ええ、一応」


「私のお気に入りよ」


「は、はぁ……」


すると、受付の奥からガタイの良い男性が出てくる。


「何を騒いでいやがる?」


「ギルドマスターじゃん、ヤッホー」


「って、お前が原因か」


「人聞きの悪いこと言わないでよ。今回は、私は関係ないし。というか、ちょうどよかったわ。マスター権限で、このタツマのランクをあげてちょうだい」


「待て待て、一体なんの話だ?」


「だって、強さに見合ってないもの。それに人柄は、私が気に入ってる時点で平気でしょ?」


「だから待てって、全く話が見えん。はぁ……まずは説明しろ」


その後、受付の方とギルドマスター、カルラが話し合う。

何故か……当事者の俺を放っておいて。

仕方ないので、俺はハクの頭を撫でる。


「ククーン……」


「ハク、お前がいて良かったよ」


「ワフッ!」


ハクは『よくわからないけど撫でられる好き!』という顔をしている。


俺はそれに癒されつつ、じっと待つのだった。



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