第23話 みんなでワイワイ
雑談をしつつ、のんびりと穏やかな夜を過ごす。
こういう風に過ごすのも悪くない。
そして、待つこと数十分……俺の鼻が完成したと告げた。
「よし、これで良いはず……おっ!?」
フタを開けると、全身がゾワっとするほど良い香りがした。
魚の出汁、野菜の出汁、きのこの出汁とワインが混ざり合ってクリーミーな色合いになって綺麗だ。
「うむ、素晴らしい香りだ」
「ふふ、良いですね」
「ほほう? 悪くないわい」
「んー、臭くはないわね」
それぞれ別の感想が出てくる。
そういえば、たまたまだけど異種族の人達が揃ってるんだよな。
いないのは竜人くらいか。
「さて、仕上げにバルサミコ酢をかけて……完成っと。お待たせしました、本日のメニューはクリーンニジマスのアクアパッツァです」
「ワフッ? ……キャウン!」
「ご飯ができた途端に起きるとは……現金な息子だ」
「ワフッ!」
起きたと思ったら、俺の周りをぐるぐると走り出す。
尻尾も振って、『ご飯〜ご飯』と顔が物語っている。
「ったく、仕方ない奴め」
「ふふ、仕方あるまい。それくらい良い香りだ」
「ほれ、ささっと食わせんか」
「やーねー、せっかちで」
「なんじゃと!?」
「何よっ!!」
「わかりましたから! 争う人にはあげません!」
「「………ふんっ」」
二人が互いにそっぽを向いて静かになる。
「なるほど、これは大変だ」
「ふふ、言っただろう? さて、私も手伝おう」
「それじゃあ、アクアパッツァを人数分に取り分けてもらえますか?」
「ああ、お安い御用だ」
「お願いします」
その間、俺は急いで飲み物の準備もする。
それぞれの好みを聞いてコップに注いでいく。
「ハクとカルラは白ぶどうジュースで、俺とカレンさんは赤ぶどうジュース、アリアさんとノイス殿が赤ワインと……よし、できた」
「ねえねえ、私のは?」
「ちょっと待って……これを食べるといい」
俺が魔法のツボから取り出したのは、森でとった繊細マンゴーだ。
「えー? これなの? これって酸っぱくて嫌いだわ」
「まあまあ、そう言わずに。ほら、匂いが違うだろ?」
「スンスン……確かに甘い匂いがするわ」
「とりあえず、騙されたと思って食べてくれ」
「ふーん……わかったわ」
その後、アクアパッツァも分け終え……食事となる。
「それじゃあ、いただきます」
「「「「いただきます」」」」」
まずは魚を一口含み……思わず笑みがこぼれる。
鼻に抜けるワインの残り香、優しい口当たりが良い。
「美味いっ……淡白な味わいにさっぱりした酸味がよく合うな」
「はぐはぐ……ワフッ!」
「おっ、良かった。少し心配だったが、ハクでも食べられるか」
白ワインと仕上げのバルサミコソースによって、上手く調和されていた。
甘みの中に絶妙なバランスで酸味がやってくる。
こうやって、川魚を洋風アレンジするのも悪くないな。
「ん〜!? お、美味しい……! これは食べたことない味わいだ。このバルサミコソースと言ったか? これが上品な仕上がりになっている」
「そういう難しいことはわりませんが、美味しいのは確かですね。このソースですか? これをパンにつけるとめちゃくちゃ美味しいです」
ふんふん、やはり女性陣には受けが良さそうだ。
さっぱりしてるし塩分控えめで、野菜もたくさんとれる。
男性向け、女性向けと分けても面白いかもしれない。
「ふむ、悪くはないのう。こういうのは口に合わんと思っていたが、たまには良いかもしれん。赤ワインも美味いわい。だが、次は豪快な肉料理やエールなんかが良い」
「んー、少し魚の匂いするけど食べられないってほどじゃないわ。白ぶどうジュースは、さっぱりして私好みだけど」
なるほど……ドワーフやエルフの方々は、割とシンプルな料理の方がいいかもしれないと。
ドワーフにはステーキ肉、エルフには温野菜のサラダとか。
そこにお好みのソースやドレッシングで食べてもらうとか?
「タツマ殿、何をニヤニヤしてるのだ?」
「えっ? ……してましたか?」
「ああ、我々を交互に見てな」
「す、すいません……多分、楽しくなったんだと思います。こうして人に食べてもらうことは、俺にとっては一番嬉しいことなので。後は、種族によって好みが違うんだなと……どんな料理を出したら喜ばれるかを考えてました」
味の好みは人によって千差万別だ。
そしてチェーン店ならいざ知らず、個人店ならお客様の体調や味の好みに合ったものを出したい。
何より、それを考えることが楽しい。
「ふふ、そういうことか。ならば、私の方も急いで手配をしなくてはな」
「あっ、催促したわけでは……」
「わかってるさ。ただ、私も早くお礼をしたいし……何より、お主の料理をもっと食べてみたい」
「アリアさん……ええ、いつでも来てください」
「うむ、言質は取ったぞ?」
「はい、約束します」
星空の下、アリアさんと隣り合わせで微笑み合う。
……なんだか、良い雰囲気なのでは?
そう思った時、再び背中に重みを感じる。
「ちょっと!? タツマ!」
「……カルラ、急に乗らないでくれ」
「そんなことより! この果物は何!? 私、こんなの知らない! 前も食べたことあったけど、すっごく酸っぱくて食べられなかったわ!」
「お、落ち着いてくれ! 首を絞めるなって!」
ぐおぉぉ!? 背中に柔らかなものが押し付けられているぅぅ!?
こちとら女性経験がないおっさんなんだぞ!?
……そもそも、若い女性が住んでなかったと言い訳しておこう。
「あっ、つい……それで、なんなの?」
「あれはなぁ……悪いが、教えるのなしだ」
別に独り占めするつもりはないが、基本的に生物に備わる能力っていうのは種が生き残るための本能だと思う。
今回は俺がズルをして発見してしまったが、それを広めるのは乱獲されてまずい気がする。
「ふーん」
「い、いや、意地悪をしているわけではなく……」
「ううん、それはハンターとして当然よ。自分のやり方で、上手く獲れることを知ったんだから。あんまり広めるのは良くないし。私が言いたいのは、依頼を出すから欲しくなったら取ってきてくれるかってこと」
「……へぇ」
強引な感じだから、てっきり詰められる思ったが。
流石はA級ハンターということか。
「なによ?」
「いや、それくらいならお安い御用だよ」
「決まりねっ! それじゃあ、これからもよろしくねー」
「ああ、こちらこそ」
すると、他の三人も顔を向けてくる。
「ふんっ、儂も店ができた暁にはいうと良い」
「私はすでに約束したしな」
「では私がお供しましょうね」
「ええ、お待ちしてます」
すると、食事を終えたハクが俺の膝に乗ってくる。
俺を見上げ、『僕も一緒だよ!』とでも言いたそうだ。
「ワフッ!」
「ああ、ありがとな」
親父さんが死んでから、ずっと一人だったからかな……。
こうして、皆でワイワイ食事をする楽しさを忘れていた。
……良いものだな、一人じゃないというのは。
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