第19話 それぞれの成長

草原を駆け抜けること、数時間後……前方から、ゴブリンがやってくる。


魔物は魔獣を食べてしまうし、畑を荒らし人々を襲う存在だと。


なので、こいつらに限って言えば手心を加える必要はない。


「ケケー!」


「クカカ!」


「おっ、ゴブリンか。こいつらは、倒した方が良いって話だな」


「クゥン?」


「ハク、ひとまずは俺がやるから下がってくれ」


背中に担いでいる鞘から、大剣を引き抜く。

そして、大剣を横に構えて……精神を集中する。


「あれは、倒して良い生き物……いや、倒さなくてはいけないもの……」


「ケケー!」


「ギャギャ!」


「すぅ——ハァッ!」


「「!?」」


近づいてきたところを、大剣を横薙ぎに振るって二体同時に斬り払う。

すると、二つの小さな魔石となる。


「……ふぅ、平気そうだな」


フレイムヘアーの時は考える余裕もなかったし、熊に近い生き物だったから違和感はなかった。

しかし、本来なら生き物を殺すのは忌避感がある。

いくら環境適応があるとはいえ、気持ちのいいことではない。


「キャンキャン!」


「ん? どうした? ……なるほど、ハクも戦いたいと?」


「ワフッ!」


さて、どうする?

この子はどうやら珍しい魔獣で、おそらく潜在能力は高い。

俺が守ってあげるつもりでいたが、本人がやる気なら話は別だ。

その時、俺自身も親父さんに強くなりたいって言い出したことを思い出した。


「よし、わかった。それじゃあ、次出てきたらハクに任せるとしよう」


「キャウン!」


そして、再び走ること数時間後……ゴブリンが現れる。

本当に、何処にでもいる魔物らしい。


「さて、ハク……いけるか?」


「キャン!」


「やる気は十分だな。よし、お父さんは見てるからやってみろ」


「ワフッ!」


俺は一歩下がり、いつでもいけるように武器を構えておく。

そして、ハクの戦いを見守るのだった。



~ハク視点~


いよいよ、役に立つ時が来たんだ。


今の僕は、昔の僕とは違う。


弱かった昔の体と違って、この身体は強くなれる!


僕だって、戦えるってところを見せなきゃ!


「ギャキャー!」


「ガウッ!(やられるもんかっ!)」


「グカ!?」


向かってきた敵の棍棒を避けて、すれ違い様に爪で首元を切り裂く!

すると、敵が小さな石になった。


「ワフッ!(やったぁ!)」


「ハク! 後ろだっ!」


「グキャ!」


「キャン!?(わわっ!?)」


パパの声に反応して、咄嗟に横に飛ぶ。

僕がいた位置には小さな穴が開いていた。

どうやら、後ろから棍棒で殴ろうとしたらしい。


「グー(むぅ、悔しい)」


「ハク! 切り替えろ! まだ敵は残っているぞ!」


「ワフッ!(はいっ! パパ!)」


改めて敵と向き合う。

相手は棍棒を構えて、こっちの様子を見てる。

さっきの奴がやられたから警戒してるのかも。


「ククーン……(えっと、僕にできることは爪と牙と……)」


「ギャギャ!」


「ハク! 来るぞ!」


「グルァァァァ!(くらえぇぇ!!)」


敵が迫ってきた、その時……本能が叫んだ。

そして気がついた時、僕は氷の弾を吐き出していた。

それは目の前の敵を貫き、相手が地面に倒れる。


「グキャ!? ……カ、カ……」


「クゥン?(あれ? 石になった? 倒しちゃった?)」


「ハク! 凄いじゃないか! よくやったな!」


「キャン!? (わわっ!? パパ、痛いよ〜!)


思いきり抱き上げられて、ほっぺですりすりされます。

ちょっと苦しいけど、すっごく幸せだ。


「ははっ、すまんすまん。少し油断はしたが、良い戦いだった。魔法も使えるみたいだし、これなら戦えそうだな」


「ワフッ!?(ほんと!?)」


「ああ、頼りにしてるからな」


「アオーン!(うんっ! 任せて!)」


よーし! どんどん強くなってお父さんの役に立たなきゃ!


それが、僕を助けてくれたパパにできる恩返しだと思うから。







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