第17話 男気
その後は商店街に行き、フレイムベアーの報酬を使って生活用品を購入していく。
買うのは食材や調味料、生活用品や着替えなど。
聞くところによると冷蔵庫や洗濯機などもあるらしい。
テイマーと魔石という存在があるからか、俺の知る世界と大差ない基準で助かる。
そんな中、ハクはご機嫌で俺達の前を歩いている。
「ククーン……ワフッ!」
「ふふ、ご機嫌だな。見るもの全てが初めてだから楽しいのだろう」
「それは俺もです。すいません、魔法のツボを頂いてしまって。流石に、この量は持ちきれないですし」
「いや、基本的に私は使わないから構わないさ。命を救ってもらった礼としては安いものだ。それに兵士と違って、ソロも多いハンターを続けるなら必要になる。魔獣によっては、十メートル以上の獲物もいるからな」
「十メートルですか……それなら必要ですね」
そんな会話をしていると、俺の目にとある店が止まる。
店先には多種多様な武器が飾ってあった。
「あっ、あそこに行きたいです。武器とか欲しいので」
「なに? ……あそこは少し難しいかもしれん」
「そうなんですか?」
「ああ、気難しいドワーフが……あっ、ハクが行ってしまった」
前を歩いていたハクが店の前で立ち止まると、ずんぐりむっくりしたおじさんが出てきた。
身長は百五十くらいで、立派な髭を蓄えている。
なるほど、あれがドワーフという種族か……とか言ってる場合じゃない。
俺は慌てて、ハクの元に駆け寄る。
「なんじゃ、お主は?」
「キャン!」
「うむ、賢い目をしておるわい」
「うちの子が、すみませんでした。こら、ハク」
すぐにハクを抱っこして頭を下げる。
魔獣が問題を起こしたら飼い主が謝る、それがテイマーのルールだからだ。
「ふん、気にするでない。お主が主人か……ほう? 中々に強いな」
「へっ?」
「どうやら、その狼は儂に頼み事をしたらしい。おそらく、お主に武器を売って欲しいと」
「ハク、そうなのか?」
「ワフッ!」
「いや、それは有難いけど……勝手にやってはダメだぞ?」
「ククーン……キャン!」
どうやら、わかってはくれたらしい。
やれやれ、子育てというのも大変だ……親父さんもこんな感じだったのかな。
「……入るが良い」
「……良いんですか?」
ちらりとアリアさんを伺うと……。
「そこの女も入って良い」
「そ、それでは……タツマ殿、お邪魔させてもらおう」
「は、はい、わかりました」
こうして俺たちは、ドワーフの店に足を踏み入れることになった。
中に入ると、剣や槍や斧などの武器が置いてある。
「おおっ……!」
「なんじゃ、武器が好きなのか?」
「ええっ! それはもうっ!」
産まれながらの環境により、俺の精神は弱り切っていた。
それを叩き直す為に親父さんは、俺に様々な武術や武器の扱いを叩き込んだ。
最初は怖かったが、一周回って今では大好きである。
武器展があると、一日中眺めてるくらいには。
「ふむ、そうか。何を探しているのだ?」
「えっと、剣が最優先ですね。あと、使い捨ての槍などあれば助かります」
「使い捨てなら失敗作の槍でいいな、おまけしてやる。さて、お主の体格なら大きめの剣がいいか……切れ味より頑丈な方が良い……これはどうじゃ?」
手渡された武器を手に持ってみる。
それはバスタードタイプの大剣で、重さがずっしりくる。
これなら、俺の力でも耐えられそうだな。
「良いですね。ちょっと力に振り回されているので、これくらいの重さがあると良い鍛錬になります」
「お主の手から言って、中々の経験者じゃな?」
「わかるのですか?」
「ふんっ、手を見ればわかるわい……この辺りから好きなナイフを選べ、サービスにしてやる」
「いやいや! こんな立派なナイフをサービスでは……」
「儂が良いと言ってる。ほれ、ささっと取らんか」
「いや、しかしですね……」
「タツマ殿」
すると、それまで黙っていたアリアさんが俺を呼ぶ。
その目は『黙って受け取れ』と言っていた。
……とりあえず、従っておくか。
「わかりました、その代わりきちんとお礼をさせてください。そうでないと、俺の気が済みません。というか、受け取ってもらいます」
「……くははっ!」
「へっ? な、何を?」
「いや、なんでもないわい。試して悪かった、儂の名前はノイスという。ったく、今時の若いもんにも男気があるとは」
……どうやら、試されたらしい。
ここですんなり貰うような男がどうかを。
「いや、別に良いですよ。俺の名前はタツマと申します。というか、俺は結構な歳なんですけど……」
「ふんっ、お主などまだまだ若造だわい。待っておれ、色々とつけてやろう。そこの狼を借りてもいいか?」
「えっ? ええ、構いませんが……ハク、迷惑をかけないようにな?」
「ワフッ!」
そう言い、ハクを連れて奥の部屋に入っていく。
すると、アリアさんが近づいてくる。
「ふぅ、どうなるかと思ったが平気だったか」
「えっと、なんかよくわからないまま話が進んでしまったんですけど」
「ふふ、簡単な話さ。要は気に入られたってことだ。ドワーフ族は気難しい方が多いが、気に入った人には優しいからな」
「なるほど……職人気質ってことですか」
「まさにその通りだな」
そして、数分後……奥からノイス殿とハクが戻ってくる。
ハクは、何やらハーネスを装着していた。
「キャンキャン!」
「ハク、これは……?」
「お主の従魔が賢いとはいえ、ハーネスくらいはつけておけ」
「そ、そうですよね。では、そちらの代金も一緒に……」
「いらんわい。もし何か返したいなら、うまい飯か良い素材でも持ってくるんじゃな」
「……わかりました、約束します」
これ以上言うのは無粋なので、俺も黙ることにした。
そして大剣と鞘の代金だけを支払い、その場を後にする。
必ず、恩を返すと心に決めて。
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