第16話 都市を案内

お昼近くになったので、お昼ご飯にすることになった。


アリアさんの案内の元、テラス席付きの飲食店に到着する。


店員さんに案内され、都市を眺められる一番外側の席に着く。


ここならハクも遠慮なく食べることができる。


店員さんにおススメを頼んだら、改めてアリアさんと向き合う。


「アリアさん、色々とありがとうございます」


「ワフッ!」


「なに、気にしないでくれ。ここはテイマー御用達の店でもあるから覚えておくと良い」


「ええ、そうですね。ただ、結構広いので迷いそうです」


「そうだな……歩いて移動すると、都市を回るだけで一日が終わるな。だから、乗り合い馬車を使うと良い」


「あっ、なるほど」


注文が来る前に簡単に説明を受ける。

都市全体は十字に交差して、四つの区域に分かれる。

南東が武器や防具や洋服や装飾品、南西がハンターギルドや飲食店、北東が領主や貴族達が住む場所、北西が平民達が暮らす場所、大まかに言えばこのように分かれていると。


「あとは、実際に案内を……きたな」


「ワフッ!」


「おっ、うまそうですね」


「ああ、早速食べよう」


店員さんがやってきて、俺たちの前にこんがり焼けた肉とスープとパンを置いた。

メニュー名は、ブルスカと書いてあったが……。


「いただきます……うめぇ」


「ワフッ!」


「ふふ、そいつは良かった」


こんがり焼けた肉を口に入れた瞬間、スパイスの香りが広がる。

いい焼き加減で噛めば噛むほど、スパイスが染み込んだ野生的な肉の味がする。

味からいって、多分豚肉に近い。


「ブルスカというのは?」


「この近隣に生息する豚の一種だ。そこそこ強いが、数も多く手頃な値段で食べられる庶民の味方だよ」


「それは良いですね。俺も、これを使って料理をしたいですね」


「ふむ、常時依頼が出てるから受けると良い」


「ええ、そうします……あっ」


ふと通りを見ると、綺麗な女性が目に入る。

恐ろしいほどに整った容姿に少し尖った耳、ポニーテールの金髪をなびかせていた。


「むぅ……そんなにジロジロ見てはいかんぞ?」


「す、すいません。ただ、あれって……」


「うむ、あれがエルフ族だな。ついでに説明しておくか」


この世界には五つの種族がいる。

俺らみたいな人族、獣の顔や獣の特徴を持つ獣人族、ドワーフやエルフなどの妖精族、竜の特徴をもった竜人族がいるらしい。

数の多い順に人族、獣人族、ドワーフ族、エルフ族、竜人族となる。


「じゃあ、エルフは珍しいですね」


「ああ、この都市には彼女しかおらん」


「彼女?」


「あらら、珍しいじゃない、貴女が男といるなんて……もしかしてデートだった?」


すると先程見ていた女性が、いつの間にかテラス脇の手すりに座っていた。

ここまで近づかれたのに、まるで気配を感じなかった。

これは……かなりの手練れと見える。

というか、間近で見ると本当に人形のように整ってる。


「デ、デートではないっ! というか、そういうアレではない! 助けてもらったお礼に、道案内をしているところだ」


「あー、大変だったみたいね? だから、そういうのはハンターに任せておけば良いのに」


「しかし、ゴブリンなどは安くて受けてくれないだろう?」


「まあ……ね、あいつら割りに合わないし」


「そうなると、数が増える前に我々が対処をしなくてはいけない。フレイムベアーがいたのは計算違いだったが」


会話に置いてけぼりにされた俺は、ひとまずハクの頭を撫でる。

すると、満足げに俺を見上げる。

どうやら、ハクも満足しているらしい。

ここは外からでもわかりやすいし、行きつけにしても良いかも。


「それはそうよねー。あの時期に起きてることは滅多にないんだけど……ところで、そこの貴方」


「は、はい?」


「私の名前はカルラっていうわ」


「カルラさんですね、俺はタツマと申します」


「ふんふん、中々強いというか……強すぎ? それに、珍しい狼を連れてるわね」


カルラさんは俺を見て驚き、ハクを見て驚いている。

もしかして、鑑定持ちたのだろうか?

いや、そういう能力がある世界とは聞いてないし。


「どうしてわかるんですか?」


「まあ、それなりに長生きしてるからねー。ふーん……面白いじゃない。タツマ、これからよろしくね!」


「へっ? え、ええ、よろしくです」


「決まりね! それじゃあ、また会ったらよろしくねー」


それだけ言い、風のように去っていく。

冷たい見た目と違って、中身は明るい女性らしい。


「ほう、気に入られたか」


「そうなんですか?」


「私がいるとはいえ、カルラから寄ってくることなど珍しい。種族の問題もあるが、あの見た目で色々と面倒事も多いしな」


あの見た目なら仕方がないよなぁ。

失礼ながら、俺も見てしまったし。


「それはそうでしょうね。それより、たった一人のエルフなんですか?」


「ああ、そうだ。エルフならともかく、彼女はハイエルフだ。普通は世界樹の森から出てくることはない」


「何か違うんですか?」


「人族に例えるなら、平民と貴族のようなものだ」


「あっ、なるほど」


「ハンターランクA級の実力者だから覚えておくと良い。さて……食べ終わったし、行くとするか」


満足のいく食事を取った俺達は、店を出て再び歩き出す。

ちなみに食事代は、何とかアリアさんの分も払わせてもらった。

うん……頑張った俺!


「さて、次は……生活に必要な道具と都市の成り立ちか」


「成り立ちですか?」


「言い方が悪かった。どのようにして生活が成り立っているかということだ。さあ、ついてきてくれ」


そのままハクと一緒についていくと、とある檻の前に到着する。

そこにはスカンクのような生き物がいた。


「ブスー」


「キャンキャン!」


ハクと目が合い、何やら会話をしているようだ。

そういや、ハクにも友達とかいた方が良いのかな。

こう、切磋琢磨できる仲間とか。


「えっと、こいつは……」



【ガスタンク】


口から火を、尻からガスを放出する魔獣。

気性が荒く、怒らせると厄介。

食用には向かない。



……友達には向かなそうだな。


「この魔獣はガスを生み出す便利な生き物なのだが、喧嘩っ早いくせに弱い。なので、テイマー協会が保護している。そして都市全体のガスをまかなっている。その他にも電気を生み出すデンキナマズや、水を生むセレナーデ、火を吹くサラマンダーなどもいる」


「なるほど……テイマー協会の重要さと、ハンターギルドとの関係性がわかりますね」


「うむ、その通りだ。もはやテイマーなくして生活は成り立たないだろう。そして、それを捕らえたり保護したりするハンターもな」


「大事なことですね」


前の世界でもそうだが、共存の道を行くことがいかに難しいか。


そして個人的には、ここの理念は好ましく思う。


俺もハンターの端くれとして覚えておこう。

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