第11話 みんなで食べると美味い

 アリアさんの説明によると、この世界には魔法や魔物という生き物がいる。


 魔法とは魔力を持っている者は誰でも使えるが、戦いに使えるくらいの魔力を持つ者は限られている。


 それに魔力があっても、魔法を使う才能がなければならない。


 ゆえに、魔法使いそのものが少ないらしい。


「へぇ、それでは魔法使いは貴重なんですね?」


「ああ、それ故に傲慢になったりもするが。威張ったり、他者を見下したりな」


「それは良くないですね。別に、それが傲慢になって良い理由にはなりませんから」


 父親から虐待を受けてた俺ならわかる。

 稼いでることが、暴力を振るって良い理由にはならないことを。

 そして親父殿にも言われた。

 本当に強い人は、謙虚な姿勢をする人だということを。


「……ああ、その通りだな。いやはや、フレイムベアーを倒したのにお主は謙虚だ」


「それはそうですよ。俺自身の力ではなく、あくまでも神様がくれたモノですから。貰った力で威張るほど腐ってはないつもりです」


「しかし、あいつらはその力で威張って……まあ、やめておこう。それで属性は、火、水、風、土、光、闇の六種類となっている。これが日付にもなっていて、4周回ったら一ヶき月となる」


「なるほど……」


「他には何かあるか?」


 実は、先程から気にはなっている。

 兵士の方々が、俺を遠巻きに見ているというか……怯えている?

 最初は、上官であるアリアさんがいるから近寄ってこないと思っていたが。


「その、兵士の方々の様子が……」


「……ああ、その件か。それについてはすまない。おそらく、お主の強さに恐れたのだろう。フレイムベアーを一撃で倒せる存在など、この辺境では一握りしかいない」


「あっ、そういうことですか」


「彼らにも悪気があるわけではないので許してほしい」


「いえいえ、アリアさんが謝ることないですよ。それに、そういうのには慣れてますから」


 この見た目とガタイのせいで、高校生辺りから避けられることは多かったし。

 変なのにも絡まれるし、同世代には怖がられるし散々だったなぁ。


「私は怖くないからな?」


「へっ?」


「まだ会って間もないが……お主は強いが、優しく誠実な人だと思っている……言いたいのはそれだけだ」


「……ありがとうございます」


 どうやら、慰めてくれたらしい……アリアさんは良い人だな。

 その後も一日は二十四時間とか、一年は三百六十日とか。

 簡単な魔法の使い方などを教えてもらいつつ、あっという間に時間が過ぎていく。

 そして、俺の鼻が完成だと告げた。


「よし、できましたね。これがフレイムベアー鍋です」


「おおっ! 美味そうな匂いだっ!」


「おや、できましたか」


「キャンキャン!」


「ええ、兵士さん達の分もあるのでお好きに食べてくださいね」


「「「おおぉぉぉぉ!!」」」


「皆の者! 聞いたなっ! 順番に並んでもらうが良い! タツマ殿に感謝を!」


「「「はっ!!」」」


 アリアさんの号令により、二十人くらいの兵士たちが一列に並んだ。

 俺はおたまですくって器に入れ、兵士達に手渡していく。

 そして、それが終わったら自分達の分を用意する。


「ハク、待たせたな。お前は生でいいから先に食べても良かったのに」


「ワフッ!」


「みんなで食べた方が美味しいと言っていますね」


「なるほど……ハク、よくわかってるじゃないか。飯は大勢でワイワイと食べたほうがいい。特に、こういう鍋とかはな」


「た、食べても良いだろうか? 先程から辛くて美味そうな香りが……」


 アリアさんのいう通り、先程から良い香りが鼻に抜けていく。

 それは食欲を刺激し、よだれが出そうになる。


「ええ、召し上がれ」


「では、頂くとしよう——美味いっ! 柔らかい肉は口で溶けて……熱くてピリ辛で身体が温まりそうだ。何より、味に深みがある」


「これはいけますね、疲れ切った身体に染み渡ります。傷ついた兵士達にも良さそうですし。というか、おかわりをしたいです」


「キャウン!」


 その様子を見つつ、兵士たちの様子も見てみる。


「うめぇぇぇ!」


「なんだこれ!? どうしてこんなに肉が柔らかくなる!?」


「あつっ! うまいっ!」


 どうやら、評判は悪くなさそうだ。

 熊は疲労回復促進もあるというし、彼らにとってもいいだろう。

 俺もスプーンを使って、口の中に入れる。


「 かぁぁ〜うめえ! ホットな辛さと醤油茸の出汁がマッチしてるな!」


 一度焼いたて煮込んでることで、肉がきちんと柔らかくなっている。

 何より熊は栄養素が豊富だ。

 体の疲れは飛び、体そのものが喜んでいた。


「タツマ殿! おかわりをしても良いだろうか!?」


「もちろんですっ! 量だけはありますからねっ!」


「私も!」


 それに続いて兵士の方々も声を上げる。

 料理を提供したことで、少し俺に対する恐れが消えたらしい。

 そういえば、前の世界でも似たようなことはあったな。

 初めて来たお客さんに怖がられても、料理を食べさせると緩和したことを。

 そうだ、料理は俺と人々を繋ぐものでもあったのだな。


「俺もだっ!」


「頼むっ!」


「はいはい! まだまだあるから大丈夫ですよっ!」


 それに応えて、再び器によそっていく。


 その食べる姿を見ながら思う。


 やはり、みんなで美味しいものを食べるのは幸せな気分になると。

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