外伝~アリア視点~

 ……何という男だろう。


 目の前でフレイムベアーを倒したタツマを見つめる。


 突然現れて、瀕死だった私を助けてくれて……。


 見ず知らずにも関わらず、こうして危険な魔獣を倒してくれた。


 無論本人も言っていたが、無償というわけではない。


 だが、それだとしても感謝しかない。


 私は誓った……出来るだけ彼の力になると。


「今日はお疲れ様でした」


「いや、こちらこそ心配をかけたな」


 食事が終わり、タツマ殿が自分のテントに帰った後、カレンと二人でテントでくつろぐ。

 ついでに、今日のことについて話をする。


「ほんとですよ、囮になるのは私達の役目だというのに。貴女は自分の立場がわかってるんですか?」


「うっ……すまない」


 この隊の中……というか、あの都市において私の地位は高い。

 実際の権力は無いに等しいが、それだけの立場だけはある。

 なにせ、このセレナーデ国のだ。


「無事だからよかったですが、反省してください。しかし、良き御仁に助けてもらいましたね。確認しますが……何もされてないのですね?」


「う、うむ、確認した……って何を言わせるのだっ!」


「いえ、大事なことですから。まあ、貰ってくれた方がもしかしら良かったのかもしれないですけど……行き遅れですし」


「行き遅れいうなっ! ……ぐぬぬ……」


 確かに二十五歳なので、周りはとうに結婚して子供がいる。

 世間的には行き遅れという部類には違いない。

……別に憧れがないわけじゃないのだが。


「そしたら、あの煩い連中も黙りますし」


「それは……うむ、そうかもしれない」


「もちろん、冗談ですよ? 貴女が辛い目にあうのは嫌ですから」


「それくらいはわかってる。しかし、まさか手を出されないとは思ってなかった」


 王都では、貴族は王女という私を欲して言い寄ってくるし。

 こっちにきたら、冒険者や官僚が言い寄ってくる。

 はぁ……どうやら自分の身体と容姿は、男達に人気があるらしい。


「それには同感ですね。貴女は、時には女性すらも魅了する容姿ですから」


「勘弁してくれ……おかげで、うかうか風呂にも入ってられん」


「ふふ、すみません。とにかく、紳士な殿方ということは確かですね。あの状況で手を出さないのはすごいかと。無論、打算があったとしても」


「異世界人か……まさか、この目で見る日が来るとは」


 なにせ、百年に一度現れるかどうかという存在だ。

 エルフ族やドワーフ族はともかく、人族は生きてる間に出会うのは難しい。

しかも、世界のどこに現れるかもわからない。


「ほんとですね。まあ、色々と納得ではありますが。フレイムベアーを倒したことも、何も知らなそうなところも。何より、フェンリルの幼体を連れてますから」


「やはり、アレはそうなのか?」


「獣人である私が見たので間違いないかと。未踏の地であるアストラル氷山……その覇者の血を引いてます。ただし、まだまだ幼体なので危険性はないでしょう。噂とは違って、あの通り人懐っこい性格ですし」


 伝承では、獰猛で人に懐くことなどないと書いてあった。

 しかし、ハクを見る限り……そうとは思わない。

 所詮、伝承など眉唾物なのかもしれない。


「うむ、それは思った。というより……ふつうに可愛い」


「あらら、相変わらず可愛いものが好きですね?」


「ほっといてくれ……どうせ似合わないのはわかってるさ」


「それを良いと言ってくれる殿方がいるといいですね? 案外、タツマ殿かもしれないですし。多分、見られた責任を取ってくださいといえば行けそうです」


「な、なっ——」


「ふふ、冗談ですよ。それじゃあ、寝ましょうか」


 そうして、明かりを消した。


 私は動揺を抑え込み、毛布をかぶる。


 確かにタツマ殿は良い男だ……って、何を考えているんだか。


 そもそも私は、そういうのを考えることを許されていない。


 私に自由などない……それを手に入れるには、もっと強くならねば。


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