第9話 話し合い

 キャンプに移動する中で軽く説明を受けた。


 魔法のツボという物があり、それは死んだ生き物や無機物を収納できるアイテムだと。


 ダンジョンのみで手に入るアイテムで、白なら百キロ、黄色なら千キロ、青なら一万キロ、黒なら無限に入るらしい。


 そんな説明を聞いてるうちに森を出て……キャンプ地に到着する。


「ふぅ、どうにか帰ることができそうだ」


「ほんと、今回はイレギュラーでしたね。まさか、あの時期にフレイムベアーが活動してるなんて」


「普段は活動する時期ではないと?」


「ああ、そうだ。我々は定期的に魔物狩りをしに巡回してるのだが、この時期はまだ巣の中で冬眠をしてるはずだった。しかし、今回は出くわしてしまった。これは、あとで色々と調べなければなるまい」


「ええ、そうですね。では、貴方のお話を聞きましょう。このテントをお使いください。私が表で見張っているので、まずはお二人でお話ください」


「ありがとうございます」


「うむ、まずは私が聞くのが筋だろう」


 見張りをカレンさんに任せ、アリアさんとハクと一緒にテント内に入る。

 そこの地面には毛布があったので、そこに座ることにした。


「さて、何から聞いたものか……」


「まずは、俺の話を聞いてください。ただし、基本的に他言無用でお願いします」


「わかった……ただし、カレンだけには言っておきたいが構わないか? そうしないと、いらん詮索をされてしまう。私が脅されているとかな。彼女は私の腹心だから安心して良い。まあ、だからこそ逆に心配をかけてしまう」


「ええ、それくらいなら構いません」


「感謝する。それ以外については命の恩人の頼みだ、我が名に懸けて誓おう」


「ありがとうございます。それでは……」


 俺はアリアさんに、ありのまま起こったことを説明する。

 自分は異世界人で、突然この世界にいたこと。

 何やら特殊な能力と、狼を与えられていること。

 今のところ、それくらいしかわかっていないことを。


「なるほど……いや、あんなところにいた理由もわかったな。それに、その強さの秘訣も。おそらく、お主は神によって導かれた迷い人だ」


「神……ですか?」


「ああ、そうだ。この世界にはセレシアという神がいるのだ。その神が気まぐれで、異世界より人を呼び寄せることがある。時には魔王だったり勇者だったり、学者や研究者だったり……その明確な理由はわかっていない。ただし、呼ばれた者は何かしらの偉業を成し遂げてる者が多い」


 ……多分『神なんているですか?』なんて聞くのは野暮なのだろう。

 それに、こんな状況だから否定もできないし。

 そういうものとして、受け入れるしかないか。


「それでは、何か使命があるということですか?」


「いや、そういうのはないらしい。気まぐれで呼ぶにしても、確か本人が望みがあってくるらしいとか」


「俺の望み……そういうことか?」


「何か心当たりがあるのか?」


「そうですね……前の世界でやりたいことができなくなってしまったのです。それを見ていた神様が、この世界に呼んだのかもしれないですね」


 前の世界でも説明できない神隠しなどはあった。

 もしかしたら、こういうこともあったのかも。

まあ、確かめようがないし気にしなくていいか。


「ちなみに何をやりたいか聞いても?」


「ええ、もちろんです。俺は料理と狩猟を生業としてましたので、出来れば同じようにしてみたいですね」


「自分で獲った獲物を調理して客に提供するということか……そうなるとハンターギルドに登録した方が良いな」


「ハンターギルドですか?」


「ああ、そうだ。魔物や魔獣を依頼によって倒したりする専門の職業のことだ。時に生き物を保護したりもする……お主の相棒のように珍しい魔獣などをな」


 ……日本狩猟協会みたいな感じか?

 生き物を狩りつつも、それを守ったりもする。

 そうならば、俺に合っているかもしれない。


「それは良さそうですね。そこで狩った獲物を、自分の店で出せば良いと」


「ああ、そうなるな。後は、家と土地さえ手に入れれば良い」


「ええ、そうですね。しかし、土地となると高いですよね……」


「そこは安心してくれ。私が責任を持って土地を用意する。流石に場所を指定はできないし、料金を立て替えることくらいしかできないが」


「いえいえ、それで十分ですよ。後は、できればこの世界のことについて教えて頂けたら助かります」


「もちろんだ、それくらいはしないと借りは返せない。お主の身の安全と保証は私がしよう。これでも、そこそこ偉い地位にいるのでな」


 ……どうやら、上手くいったみたいだな。


 無論、善意で助けたが……俺はこの世界においてあまりに無知だ。


 命を助ければ、悪い扱いはされないという打算もあった。


 これで、俺はこの世界でも料理人としてやっていけそうだ。




 ◇


 ~???視点~


 くそっ! どうなってる!


 本当なら、俺が助けに入る予定だったというのに!


 何もかもが計算違いだっ!


「どうしますか?」


「どうもこうもあるか!」


「そ、そうですね」


 部下からの言葉に苛立ちが募る。

 上手く冬眠中のレッドベアーを起こせたのは良い。

 それを使ってアリアを追い込む事にも成功したし。

 しかし、そこからが不味かった。


「まさか、自分が囮になって崖から飛び降りるとは」


「ヒヤヒヤしましたよ。死なれたら困るのはこっちですし」


「それくらいはわかってる」


 相手は自国の王女だ、流石に死なれたらまずい。

 証拠は残っていないが、俺自身の目的も叶わなくなってしまう。


「しかし、相変わらず男前な女性ですね」


「そこが良いんじゃないか。俺の目的はあいつを屈服させることだ。そして、俺の女にしてやる。そしたら……ククク」


 あの王女は、女だてらに剣なんか振るっている。

 女ならば、大人しく男にしたがっていれば良いものを。

 なんとか、あいつをモノにして……俺を辺境に追いやった奴らを見返してやる。


「でも、これからどうするんです? あっという間に現れたと思ったら、あの謎の男が助けてしまいましたが」


「まずは調べることだな。レッドベアーを倒すとは只者ではない。あとで、手練れの冒険者を絡ませてみよう」


「了解です。それでは、手配しましょう」


 その後はバレないように、その場を離れる。


 アリアよ、待っていろ……必ず手に入れてみせる。

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