第8話 己の強さを知る
俺はゆっくりと相手に近づいていく。
近づくにつれ、改めてその大きさに驚く。
さて、一度確認しなくてはいけないことがある。
俺に狩りを仕込んだ親父さんに言われた。
狩り目的でないなら、無闇に生き物を殺さないようにと。
「なあ、引いてくれるか?」
「グォォォ!」
どうやら、無理そうだ。
ついでに見ておくか。
◇
【フレイムベアー】
森の王者と言われる魔獣。
普段は温厚だが、怒ると皮膚が赤く染まり炎を吐く。
その肉質は上質で、栄養価も高い。
◇
「タツマ殿! 無駄だっ! そいつは人の味を覚えてしまっている!」
「なるほど……それならば仕方ない」
これも親父さんに言われたことだ。
もし人の味を覚えてしまったら、その時は覚悟を決めろと。
「グォォォ!」
「よっと」
振り下ろされた腕を右に避けると、避けたところには穴ができていた。
スピードは見切れる、食らったらタダでは済まないか。
……今の体ならいけるか。
「グォォォォオ!」
「ふんっ!」
振り下ろされた右腕を、爪を避けた状態で左腕で受け止める。
思い切り米俵を乗せられたような感触だが、受け止めきれないことない。
「グガッ!?」
「な、なんと! あのフレイムベアーの腕を受け止めたっ!? 人など、簡単に潰すというのに……一体、どんな身体をしているのだ」
「隙だらけだな——セァ!」
「グォォオ!?」
そのまま体だけをずらし懐に入り、右のパンチを腹に食らわせた。
すると、相手が数メートルぶっ飛んで木に激突する!
「あ、あの巨体を吹き飛ばした? タツマ殿、あなたは一体……?」
「アリアさん、まだいたんですか。ダメじゃないですか、 一緒に避難しないと」
振り返ると、アリアさんと先程の女性以外はいなくなっていた。
どうやら、避難する時間は稼げたらしい。
ハクは先ほどの女性と何やら話をしているように見える。
「馬鹿を言うな。私が巻き込んで置いて逃げるなどあり得ない。お主がやられた時は、私が囮になるから逃げてくれ」
「……ははっ!」
「な、なんだ? どうして笑うのだ?」
「い、いや、すみません。まさか、そんな男気のあるセリフが出てくるとは思ってなくて」
「むぅ……どうせ、私は男っぽいさ」
そう言いいじける様は、少し可愛らしい。
どうやら可愛さとかっこよさを持ち合わせる女性のようだ。
「いえいえ、お綺麗ですよ。さて……そう簡単にはいかないか」
「グ、グォォォ!!!」
「ま、まずい、怒り狂っているぞ。気をつけろ、あいつは火のブレスを吐く」
「なるほど、ありがとうございます。すみませんが、剣を貸してもらっても良いですか?」
「ああ、もちろんだ。切れ味だけは保証するから遠慮なく使ってくれ」
俺は抜き身の剣を狩り、正眼に構える。
よし、このロングソードタイプなら剣道と同じように使えそうだ。
「いけそうですね。それでは、俺に任せて離れていてください」
「う、うむ……」
何やら頬を赤らめたアリアさんが後ろに下がっていく。
同時に相手が口を大きく開く。
「スゥ——ゴァァァァ!!」
「火の玉かっ!」
バスケットボールサイズの火の玉が連続で打ち出された。
流石に食らうとまずいので、左右に避ける。
「アリアさん! こいつの火は無制限ですか!?」
「そう思ってもらって良い! 体の中に器官がある!」
「了解ですっ! ……ならばっ!」
抜刀の構えをしつつ、火の玉を避けながら接近する。
そして、そのまま相手の懐までやってくる。
「グォ!?」
「悪く思うなよ——シッ!」
「グォオオオォオ!?」
相手が火を吐く直前に、口の中に剣を突っ込んだ。
すると相手の顔が爆破して、胴体だけが地に伏せる。
油断せずに、そのまま待ち……倒したことを確認した。
「ふぅ、これでよし」
「まさか、本当に倒してしまうとは……お主は何者なのだ? この魔獣は、この森の主人とも言われる凶暴な魔獣だ。先ほども言ったが、そう簡単に勝てる相手ではない」
「……そうですね、そろそろ説明します」
すると、ハクが尻尾を振って胸に飛び込んでくる!
「ワフッ!」
「おおっ、ハク。よしよし、怖かったな」
「ガウッ!」
「ん? どうした?」
先程と違い、何やらやる気のある顔になっていた。
「どうやら、怯えてた自分を恥じているみたいですね」
「貴女は……」
「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。私は猫獣人のカレンと申します。どうやら、アリア様がお世話になったみたいで……諸々を含めて感謝いたします」
「いえいえ、お気になさらずに。こちらにも利があって純粋とは言えないので。それより、先ほどのセリフは?」
言い方からして、ハクの言うことをわかっている感じだった。
「えっ? ……我々獣人は、一部の魔獣となら意思疎通を図ることができるのです。それを知らないというのはかなり珍しいですね」
「はは……なるほど、そういうことですか。いえ、その辺りを含めてお話がしたいですね。
その前に、ハクはなんと?」
「怯えちゃったけど、強くなって次はパパを守るだそうです」
「ワフッ!」
「……そうか、そうなのか」
俺はハクを抱き上げて、その頭を優しく撫でる。
俺が昔、親父さんに同じことをいった時撫でてくれたように。
「ククーン……」
「では、期待するとしよう」
「キャン!」
「ああ……さて、何処かゆっくり話せる場所はありますか?」
「そうですね、是非ともお礼をしないといけないですし……アリア様、何を呆けているのですか?」
ふとアリアさんを見ると、俺と目が合う。
しかし、すぐに逸らされてしまった。
やはり、アレが尾を引いているか……やはり殴られるべきか?
「い、いや、なんでもないっ! それで、何の話だ?」
「聞いてなかったですか? とりあえず、場所を変えてゆっくり話そうってことです。タツマさん、この森の出口にキャンプ地があるのでそこに行きましょう」
「了解です。あの熊はどうしますか?」
「無論、貴方の手柄なのでご自由にお使いください。私たちの方で運びましょう」
「いや、それには及ばないです。結構重そうですから、自分で持っていきます」
「いえ、平気ですよ」
するとカレンさんが熊に近づき、何やらツボらしき物を取り出すと……なんと、その中に熊が吸い込まれる!
「な、何ですか!?」
「これも知らないのですか? これは何でも入る魔法のツボです……なるほど、色々と訳ありですね。それでは、場所を移動しましょう」
「は、はい、わかりました」
何でも入るツボ……アイテムボックスののようなものか。
驚きに包まれながらも、俺はカレンさんの後をついていくのだった。
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