第4話 美味い飯を食い、人助けをする

……どうやら、かなり珍しい個体らしい。


孤独に過ごす覇者に、神の使いねぇ……どう見ても、可愛いワンコにしか見えないが。


今も一生懸命に、指定した位置に木を集めてる。


「クゥン?」


「あ、ああ、すまんすまん。俺も準備するよ」


「ワフッ!」


「いかんいかん、今はそんなことは良い……ただ、一つだけわかったな」


枯葉を集めつつ思う……それは、この場所は俺のいた世界とは違うということだ。

そんな気はしていたが、改めて実感する。

だが、不思議とパニックに陥ることはなかった。


「……現実味がなさすぎて驚きを通り越したか。もしくは、別に生きているならいいかと思ってるのかもな」


父親の顔は知らないし、母親は男の家に行ってほとんど返ってこなかった。

そんな中、餓死寸前のところを親父さんに保護された。

あの時に比べれば、生きてるだけマシというものだ。


「よし、これくらい集めればいいだろ。ついでだから、疑問に思っていたことを試すか」


身長百八十センチの俺より、大きな岩の前に立つ。

前の俺なら、流石に持ち上がらなかった大きさだが……異世界にきたというなら。

そして、俺の体に何が起きてるかわかるはず。


「ぐっ……おいおい、簡単に持ち上がってしまったぞ」


どうやら、俺の身体は尋常ではなくなってるらしい。

しかし、今は助かる。

これなら、火起こしもしなくて済むかもしれない。


「キャン!」


「おっ、揃ったか。ありがとな、ハク」


「ワフッ!」


木を集めてきたので、しつかりと撫でて褒めてあげる。

すると、目をうっとりさせる。


「ククーン……」


「可愛いやつだな……さて、仕上げと行くか」


まずは、乾いた地面に枯葉を置き、その上に木を置いていく。


「さて、俺の予想が正しければ——ふんっ! ……ついてしまったか」


「キャウン!」


俺の指パッチンで火花が出て、それが枯れ木に燃え広がっていく。

まさかとは思ったが、俺のパワーはとんでもないことになってるようだ。

これは力加減を考えないとえらいことになりそう。


「漫画とアニメとかでしか見たことないぞ……自分を鑑定したいが見えないし」


ひとまず考えるのを放棄して、背負っていたリュックから包丁を取り出す。

内臓を取り出して、川の水でよく洗ったら木にニジマスをぶっさす。

それを火の近くに置けば、後は待つだけだ。


「今のうちに荷物を確認しとくか」


「ワフワフ……」


「別に食いもんはないよ。できるまで待ってなさい」


ハクに覗かれつつも、リュックの中を確認する。

大きなタオルが一枚、包丁が一個、空のペットボトル、着替えが一着、から箱のお菓子。


「……そういや、車の中にスマホとか財布は置きっぱだったな。まあ、包丁があっただけ良かったか」


「ククーン……」


「おいおい、よだれが出過ぎだって……まあ、気持ちはわかるが」


何故なら、すぐにパチパチという音共に良い香りがしてくるからだ。

香ばしく焼ける匂いは、腹ペコの状態にはきつい。


「たしかに、見てると頭がおかしくなりそうだ。ハク、少し水遊びをしないか?」


「キャウン!」


「よし、決まりだな。幸い、流れは速くないし平気だろ」


俺はパンツ一枚になり、ハクと一緒に泳いだり浮いたりする。

ひとしきり遊んだら、ハクは犬かきをして楽しそうに泳いでいる。

俺は焼いてる魚の位置を変えたり、もう一匹の魚を捕まえたりして時間が過ぎ……。


「よし、もう良いだろ……ゴクリ」


「ハフハフ……」


俺達は動いたことにより、更に腹ペコになってしまった。

もう、我慢の限界である。

1本しか焼いていないので、まずは串をハクに差し出す。


「ほら、ハク、先に食べてもいいぞ」


「クゥン?」


「ああ、お前が先だ。頑張ってくれたしな」


親父さんもそうだった。

いつも美味いものがあると、俺に先に食えって言ってくれた。


「キャウン! ……はぐはぐ……ワフッ!」


「そうか! 美味いか! よしよし、では俺も頂きます……うまぁ」


ハクの食べた反対側を噛むと……パリッと皮が音を立て、その身がほろっと崩れて口に入ってくる。

塩も胡椒もしていないが、魚本来の甘みがあって美味い。

プリッとした食感は、しっかり身が詰まっている証拠だ。


「これは今まで食べた川魚の塩焼きで、一番美味いくらいだな……ハク! どんどん食べるぞ!」


「ワフッ!」


俺とハクは夢中で交互に食べ続け……あっという間に1匹を平らげる。

そして二人で顔を合わせ、満足げに微笑み合う。

満腹とはいかないが、ひとまず良しとしよう。


「ふぅ……美味かったなぁ」


「ワフッ……」


「ひとまず水もあるし、腹もそれなりに膨れたし……これからどうするか考えないとな」


正直色々とありすぎて、何から手をつけて良いのかわからないが。

ただ、このままここにいるってわけにはいかないだろう。

まずは、俺が何処にきたのか確認しなくてはいけない。


「どこか人のいる場所に行くのが一番か」


「……クゥン? ……キャンキャン!」


「ん? どうした? ……ハク! そこで待ってろ!」


ハクの視線の先に目を向けると、誰かが川を流れてきていた。

それはピクリともしないので、おそらく気を失っている。

俺は急いで川に入り、その人を受け止める。


「ふぅ、どうにか流される前に間に合ったか」


「……うっ」


「よし、息もあると……まずは、丘にあげないと」


そのまま川を上り、ひとまず火の近くに優しく置く。

しかし、そこで立ち止まってしまう。

……めちゃくちゃ綺麗な人だ、こんな人を見たことがない。

長い銀髪、整った目鼻立ち、キリッとした感じ、まるで絵から出てきたようだ。


「クゥン?」


「ん? いや、相手が女性だからどうしたもんかと」


勝手に触るのは良くない……色々な意味でまずいし。

濡れてしまっているので、そのスタイルの良い体のラインが出てしまっている。


「本当なら脱がせた方が良いが……ど、どうする?」


「キャン!」


ハクが、俺の服を噛んで引っ張る。

その顔はなんで助けないの?と言ってるような気がした。

……自慢じゃないが、俺は女性耐性がない。

見た目や生まれもあるが、成人した女性は大体都会に行ってしまったし。


「いや、命がかかってる……やるしかないか」


寒くないとはいえ、このままでは体温が下がって死んでしまう可能性もある。


俺は覚悟を決めて、行動を開始することにした。


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