第20話 『古代雑誌』

 古代遺跡『病院』。古き人間が残したこの建物には現在、百人ほどのエルフが滞在していた。


「無事、回復したようだな。改めて名乗ろう。私がエルフ達を束ねるラララノアだ」


 白衣姿のエルフの長、ラララノアは俺達を待合室と書かれた部屋に集めていた。


「この度は仲間の治療に尽力してくださり感謝致します。実は我らは人間に追われています」


 二コは丁寧に感謝を告げ、自分達の置かれた立場を説明する。


「なるほど。人間は等の昔に機械に支配され、規律を守り争いもなく、まるでロボットのように感情もなくなり暮らしていると思っていたが……理由はそこの男だな」


 ラララノアが俺を見る。


「なんで、わかったの!?」


 ミクが立ち上がながらラララノアの発言に驚く。

「欲がなきゃ争いは起こらん。支配欲がないお前らの争い事といったら、必要なくなってゴーレムしかいなくなったのに、そこに存在してる『男』が原因に決まっているだろう」


 二コが一歩出て強い眼差しでラララノアに伝える。


「おっしゃる通りです。天外は人間の希望。だけど、国に帰れば確実に捕らわれてしまう。私は……私は……」


 言葉に詰まる。


 私は天外に何を求めているのだろう?


 天外は人間の希望。国に渡せば人間はさらに千年永らえる。私も……みんなも天外の子種をリカバリーマシンから摂取できて子供を生める……。そして、70歳で焼かれるのを待つだけ……。


 思い詰めた表情の二コにラララノアは「やれやれ」と言いながらひとつ提案する。


「要するにその男を独占したいのだな。感情のなくなった人間を数多く見てきたが、これは面白い。ちょうど明日から100年ごとのエルフの祭りが行われる。そこで我らと対決して、お前らが勝ったら男と共に逃がしてやろう。我らの秘術があれば人間なんぞに見つからぬ」


「本当に!?」


 ミクが「よっしゃー!」と拳を上げる。


「その代わり、お前らが負けたらそこの男は我らが貰う」


 エルフはニヤリと俺を見る。


「え!?」


 二コは不安そうな顔をする。


「我らは繁殖に男は必要ない。だが、男遊びは案外好きでな。そこの男には我らの遊び相手になってもらう」


 俺はどんな遊び相手だよ!と心の中で叫びながら緩む頬を引き締める。


「俺は二コ達の仲間だ。離れる気はない」


「……天外」


 二コが泣きそうな顔をしていたので、ちょっとカッコつけてみる。


「なに、タダでとは言わん。見たところお前らAIの奴隷でろくに身だしなみを変えれなかったのだろう?お前らが勝ったら、さらにお前達の髪をエルフの秘術で染色してやる」


 ラララノアの一言で彼女達の表情が一変する。


「え!?……髪の色を……変える?」


 二コが「……そんな」と驚きの表情を見せる。


 AIに支配された神国では全員同じ格好で個性はない。偶然見つけた色の違うバングルだけで色めき立っている彼女達に『髪を染める』という行為はこれ以上のない魅力的な言葉だった。


「か、髪の毛の色を……変える?そ、そんなことで!大事な天外を!天秤にかけることなど……」


 だめだ。反論しながらロミの口から涎が垂れている。


「わかった。勝てばいいし。やろう」


 躊躇している彼女達を見ていられなくて俺が同意する。


「そうか!これは楽しみだ!勝負方法は最近見つけた『古い本』に描かれていたこれで勝負する。目を通しておけ」


 ラララノアは指を「パチンッ」と鳴らすと別のエルフが古びた書物を持ってくる。


「え!?こ、これ!?私達が探していた『古代の書物』じゃない!?」


 二コが受け取った書物を開く。ミク、ロミ、ココ、ロニも書物を覗き込む。


 そこには衝撃の内容が描かれていた。


【おっぱいバレー】


ルール

 Dカップ以上の女子3名による団体戦。

 紙風船をネットを越えて相手チームに落とせば1点。

 手は後ろで組んで、胸だけで紙風船を飛ばさなければいけない。

 先に21点取ったチームが勝ち。


「ユニホームはこの胸の部分が空いた体操服という古代衣装を着てもらう」


 ラララノアは胸の部分に穴が空いた体操服を見せるが固まったまま動かない彼女達に気づく。


「ん?どした?」


 彼女達は全員、フリーズしていた。


 エルフに渡された古い書物は彼女達『E・R・Oハンター』がマザーゴッドAIに依頼されて探していた『古代雑誌』……そう、『エロ本』だった!


 俺は固まっている彼女達に代わりに、胸の部分がぽっかり空いた体操服をラララノアから受け取ると、心の中で大きな声で叫んだ。


 これ考えた奴、天才かぁ――――!?


 <つづく!>

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