第19話 『羞恥』

「もう少しで古代遺跡『病院』に着くわ」


 私はみんなに話しかける。


「二コ……確か、エルフが住んでるんだよね。俺のいた世界にはエルフいなかったから、楽しみだよ」


 天外が私に話しかける。


「……そう」


 ああ……すごく冷たい対応をしてしまった。


 ミコの襲撃を退けるためとはいえ、私は天外になんてことをしてしまったんだろ……。


 絶対、怒ってると思う。


 急に……ゴブリンのまねをして、自ら……大切なunknownを……く……口に……口に咥えて……。


「二コ、顔が真っ赤だよ?風邪?しばらくリカバリーマシン使ってないから体調崩した?」


「はぁ――!!あ!いや……大丈夫よ」


 ミクが心配してくれたが、さらに真っ赤になった顔をミクと反対の方向へ向ける。


「ほら、あなた達、もうここはエルフの領域よ。ちゃんと歩かないと罠にかかるわよ」


 ロニがみんなを注意する。


 私がリーダーなのに、少し年上のロニにはすぐに甘えてしまう。


 そうよ!私がしっかりしなきゃ!


「AIの首輪があるからって気を抜かないように行きましょう!」


 AIの首輪は迫りくる危険を事前に察知し、回避することが可能だ。


 私はその機能を十二分に発揮する。


「ここは枯れ葉が多い!落とし穴が掘ってある可能性があるわ!こっちの獣道を歩きましょう!」


 『危険を回避』

 可能な限り危険を回避するために、危険が予想される場所には近づかない。


 「木の枝が多いわ!ヘルメット、安全靴、手袋、保護眼鏡を装着して!」


 『適切な装備』

 危険を回避できない場合は、適切な安全装備を着用する。


「橋を渡るわ!左右のロープの確認!床の強度の確認!腐敗の確認!大丈夫!私に着いてきて!」


 『 安全手順を守る』

 安全手順は、危険を対処するために必要な手順である。


「ココ!枝で擦り傷ができているわ!まずは小川で洗って!包帯を巻くわ!」


 『適切な緊急対応』

 危険な状況が発生した場合、適切な緊急対応を行うことが重要である。


「ここは岩山を登らないと先に進めないわ!一人では届きそうにないわね!各自、二人組を作って肩車の練習をして!」


『トレーニングをする』

 特定の危険に対処するために、トレーニングを受けることが重要である。


「ココ、背、高い」


 ココを肩車するミク!


「私も上がいいわ……ふぬ――!!」


 文句をいいながらロニを持ち上げるロミ。


「あ、あの俺の相手は……」


 天外が辺りをキョロキョロしてみせる。


 ……相手、私しかいないじゃない!!


「私が相手よ」


 少し顔が赤くなる。


 天外の顔がまともに見れない。


 そんな私の足の間から天外が頭を出す。


「きゃぁ――!!どっから顔を出してるのよ――!!」


 ポカポカ!


「痛っ!いや、肩車なら俺が下でしょ……」


「私達にはパワーグローブがあるから力は強いの!だから私が持ち上げるの!」


 私はムキになりながら、天外の足の間に頭を入れて持ち上げる。


「わ――!高い!」


 天外が子供のように無邪気にはしゃぐ。


 私は天外を肩車しながら、うなじに違和感を感じる。


「天外、なにかスボンに入れてないか?前のほうなのだが……」


「ご、ごめん!当たってるのチンチンだよ。高いとこ好きで気持ちよくなっちゃった!」


 なるほど。


 このうなじに当たっているのはunknownか。


 ……なるほど。


「きゃぁ――!!」

 

 私は天外を肩車したまま走り回る。


「危なっ!わっ!落ち……落ちる!」


 ゴン!!


「きゅぅ~」


 天外は私の肩から転げ落ち、岩に頭を強打して気を失う。


「ああ!ごめんなさいごめんなさい!どうしよう?血が……血が出てる!」


 慌てる私。


 ロミが天外に近づき頭をかかえる。


「まずいわ!外科処理は手持ちの薬では処理できない!リカバリーマシンがないと」


「リカバリーマシン、近くにない」


 ココの首輪から光が出て、空中に地図を表示する。


 どうしよう!?


 天外が死んじゃう!


 私のせいで……。


「ほらほら、悲しい顔をしないの」


 ロニが私を抱きしめる。


「うん。……ありがとう」


「とにかく、エルフにリカバリーマシン使わせてもらおうぜ!古代遺跡『病院』にリカバリーマシンが一番近いぞ!」


 ミクがココから投影されている地図を指差す。


「そうね、当初の目的地『病院』へ急ぎましょう!」


 私は天外をおんぶして細心の注意を払いながら走った!  


 【古代遺跡『病院』】


「?ルサワイッパオ」


 病院の正面入り口に立つと数名のエルフが弓を引いて私達を威嚇する。


「聞いて!怪我人がいるの!お願い!リカバリーマシンを使わせて!」


 バシュ!!


 私のすぐ足元に矢が放たれる。


「?ムノコッシオ」


 エルフは激昂している。


「二コ、落ち着いて。まずはエルフ語を翻訳しないと!」


 ロニが私の前に出る。


 『エルフ語……翻訳しました。発せられる言葉もエルフ語になります』


 AIの首輪の音声が頭の中に響く。


「怪我人がいるの!お願い!中に入れて!」


 ロニが必死に叫ぶ。


 すると、『病院』の中から白衣をきた美人のエルフが私達の前まで歩いてくる。


 弓を構えるエルフ達は葉っぱで作られたブラジャーとパンツを装着していることから、この白衣のエルフが長で間違いなさそうだ。


「珍しいわね。人間がこんなところまで何のよう?ここはすでに我らの領域。今さらこの場所を返せと言われても返さぬぞ」


「私は二コ。人間の国……いえ、今はAIの国から逃げているの。大事な仲間が怪我をしたの!リカバリーマシンを使わせてほしいの」


 涙目で訴える。


「リカバリーマシン?あの中にある固い置物か。あれが動かせるのか?よかろう!そいつを治す代わりに、そのリカバリーマシンとやらの使い方を教えろ」


 リカバリーマシンの使い方を知らない?


 それでも今は条件を飲むしかない!


「わかったわ!この人を早く!」


 私は天外をおんぶしたまま『病院』の中へ急いだ。


 【病院内 手術室】


 『リカバリー完了。リカバリー完了』


「ん?ここは……」


 俺がベッドの上で目を覚ますと知らない天井がおぼろに目に入る。


 下腹部に圧迫感を覚え、首を傾けて見てみると、椅子に座った二コが俺に寄りかかって寝息をたてていた。


 しばし、二コの寝顔を観察する。


 ……本当に美少女だ。


 こんな美少女のおっぱいを見たり、揉んだりできたり……その……く、咥えられたり……異世界に転移してよかったなぁ~と思う。


 二コの頬っぺたをツンツンしてみる。


「ぷくっ」


 何か言った!めちゃ可愛い!!


 俺はもう一度、ツンツンしてみる。


「ぺぷっ」


 可愛い!!


「ん……んぅ~」


 二コが起きそうだ!


「……あ!天外!目を覚ましたのね!はぁ~、良かった~」


 私は思わず抱きつく。


 天外の傷は思ったより深く、治療に丸半日を要した。


 他のみんなはエルフ達にリカバリーマシンの操作方法の説明を頼み、私はひとり天外が目を覚ますのをずっと待っていた。


「あの……天外!」


「ん?どうしたの?二コ?ここは?」


 キョトンとする天外。


 はぅ……まだ、顔をちゃんと見れない。


 まずは、あの事を謝らないと!


「この前のこと……ごめんなさい!」


 私はベッドに頭をくっつけて謝罪する。


「肩車のこと?ちょっとバランス崩しただけだし、大丈夫だよ」


 頭にできたたんこぶを触りながら私に微笑む。


「あ……それ、それもだけど!その……この前の!あの……ミクが襲ってきた時のあれ……急にで……その……ごめんなさい!」


 私はとにかく謝罪の意志を伝えようと必死だった!


「あ、あれね!はは……びっくりしたけど、嬉しかったよ……気持ちよかったし!へへ!」


 あ……怒ってない。


 そっか……気持ちよかったんだ。


「そ、そう?ならまたしてあげるわね!」


 ふいに出た言葉に、私は今まで感じたことのない感情を顔に出してしまい、急に恥ずかしくなる。


 ……きゃぁ――!!


 また私はなんてことを口走って――!!


 に……逃げよう!


「じゃ、じゃあ!天外が目を覚ましたことをみんなに知らせないと!!」


 私は逃げるようにその場を離れた。


「あ!二コ!!」


 バタン!


 扉が勢いよく閉まる。


 ……二コが逃げるように走っていってしまった。


 二コの笑顔……はじめて見た気がする。


 んで!「また、してあげるね」って言ったよな!聞き間違いじゃない!

 

 また……してくれるのかな……。


 えへ……えへへ……。


「えへへ、えへへ、えへへのへ」


「?……変態?」


 様子を見にきたココが俺のだらしなく歪んだ顔に『変態』という題名をつけた。


「あ……えへへ」


 何も反論できなかった……。


 そして、ここは……どこだ?


 <つづく>



 

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