第7話 『緊急用パスワード』
二コの双子の姉、ミコの襲撃を振り切った俺達は王国へ続く街道を歩いていた。
「どっちみち首輪をしている限りあいつらには見つかる。いっそのこと、王国に直接乗り込みましょう!」
先頭を歩く二コが拳を高々と上げると、みんな『お――!』と賛同した。
二コ達が生まれてすぐ付けられる『首輪』は、あらゆる答えを教えてくれる『全能』、毎日のスケジュールを構成する『管理』、身の安全を守る『防衛』の3つの機能があるらしい。
『個性』を犠牲にして、生まれてから死ぬまでの『人生の保証』が約束される。
「大昔にこの首輪をめぐって戦争が起きたこともあったみたいだけど、結局、争いより平和がいいって意見が多数。平和と平等を求めた結果がこの首輪」
ロミが忌々しそうに首輪を触る。
異世界転移したばかりの俺でも彼女達の違いはすぐにわかる。
まとめ役の二コ、いつも元気なロミ、お転婆なミク、しっかり者でおとなしいココ、お姉さん的存在のロニ。
全員、ショートカットの同じ髪型だけど、背の高い順に並べるとロニ、二コ、ロミ、ミク、ココ。
おっぱいの大きい順に並べるとロニ、二コ……いや、ロミの方が……。
「何?私のおっぱい凝視して。また見たいの?」
ロミが両手で胸を隠す。
ロニは「あらあら~」と俺を見る。
「私、知ってる。変態って言う」
ココが口を挟む。
「天外、変態~」
ミクが俺の前に歩き出て、楽しそうに俺を茶化す。
「い、いや!あのね!首輪!そう、首輪を外すのが目的なのかなぁ~って!あはは……」
俺は必死で誤魔化す。
「これを取ったら私達は何もできなくなるわ。私達の目標はひとつ『失われた感覚』の解放よ!」
二コの発言に俺は頭にハテナを浮かべる。
ココが俺の後ろまで駆け寄り説明をしてくれた。
「人間には『味覚』『聴覚』『触覚』『視覚』『嗅覚』の他に6つ目の感覚……『快感』があるらしいの」
「快感……!?」
マジか……俺……それ、知ってるかも。
ロミが続けて話す。
「昔は当たり前にあったらしいのだけど、男が必要なくなってから、同時に必要のなくなった感覚……らしい。もっとも、二コが偶然見つけた日記に書いてあったものだ……疑わしい」
「あの日記は本物よ!あの日記には私達の知らない言葉がたくさん載っていたわ!『デート』とか『記念日』とか……男とのやり取りが書かれていたわ!」
二コが反論する。
ロニが俺に近寄り腕を組む。
「だから、あなたが鍵なのよ。とくにここね」
腕を組みながら俺の股間を触る。
「ああ……」
……これが快感だよ――!って叫びたい……。
「ロニ!大事な『アンノウン』を気安く触らないの!」
二コが注意する。俺はもう少し触ってもらっててもいいのだが……。
「……排泄処理したい」
前を歩くミクが呟く。
「え!?この辺りにリカバリーマシンはないわよ!」
二コが慌てる!
ロミの首輪から光が飛び出し、空中に地図の映像が映し出される。
「一番近いところで『洗浄浴場』だ!走っても30分かかる……我慢できるか!?」
「たぶん……できない」
ミクはその場でうずくまる。
この世界にトイレはない。
生まれた時からリカバリーマシンで食事、睡眠、排泄処理を行ってきた。
「で……でちゃう」
ミクの我慢が限界だ!
「仕方ないわね。『古代の排泄方法』をやるしかないわね」
お姉さん的存在のロニが腕を組みながら話す。
「古い書物で読んだことがあるの。ミク!かがんで両膝をつき、両手をできるだけ前に置いて!」
「こ、こう?うぅ……でちゃうよ~」
……四つん這いになるミク。
「そのまま、片足を上げる!ロニ、手伝ってあげて」
「わ、わかった!」
ロニはミクの片足を持つ。
「でも、生命維持パンツは『洗浄浴場』の脱衣場にある鍵がないと外れない」
ココが冷静に話す。
「大丈夫!緊急用の
「限界~でる~!」
我慢が限界のミクの前に立ち、ロニは緊急用の
「ミク!『おしっこ』!!」
パカッ!
シャ……シャァ~!!
ミクの生命維持パンツの下が開き、なんとか間に合った!!
俺はさすがに見ては行けないと反対を向く!
だが、なかなか鳴りやまない音に両手で耳を塞ぎながら、心の中で大声で叫んだ!
……それ、犬のおしっこ――!!
「ふぅ……なんとかなったわね」
二コは胸を撫で下ろす。
「うぅ……なにか大事なものを失った気がする」
スッキリしたが、浮かない顔のミク。
「なんだか、疲れちゃったわね。水浴びしたいし、王国の『洗浄浴場』へ寄っていきましょう」
二コの提案で次の目的が『お風呂』っぽいところに決まった!
二コを先頭に再び歩きだす。
「異世界……すごいぜ!」
俺は小さくガッツポーズをしながら、水溜まりを跨いで彼女達のあとをついていった……。
<つづく>
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