第14話 問題解決の後は同じ布団で
「翔利君はどんな女の子が好きですか?」
学校から帰って来て晩御飯とお風呂を済ましてのんびりしていたら、瑠伊がいきなりそんな事を聞いてきた。
「瑠伊みたいな子。急に何?」
「普通逆では? えっとですね。話し始めを考えていたら分からなくなったので気になっている事を聞いてみました」
「なるほど。俺は瑠伊みたいなっていうか、瑠伊が好きだよ」
「知ってます。いつか本気になって貰います」
翔利は本気で瑠伊の事が好きなのに、瑠伊はなぜか分かってくれない。
「じゃあ本題です。華さんから聞いてると思いますけど、私は今学校で三つの嫌な事をされています。そのうちの二つは翔利君が解決してくれましたけど」
翔利が解決した二つの事は、霧島からのあからさまな嫌がらせと担任からのセクハラだ。
「翔利君にはちゃんとお話しますね」
「大丈夫?」
「はい。正直もうちょっと辛いと思ってたんですけど、翔利君が居るって思ったら他の事がどうでもよくなってきたんです」
「俺、役に立ったの?」
「翔利君が居なかったら私はそもそもここには居ないですし、もし翔利君が助けてくれた後に傍に居てくれなかったら同じ事をしてたかもしれません」
瑠伊が優しい笑顔で翔利を見つめる。
「そっか。良かった」
「翔利君は私が居て」
「嬉しい」
瑠伊の言葉を最後まで聞く前に翔利が答える。
「ありがとうございます」
瑠伊が嬉しそうに答える。
「それじゃあ霧島さんのから話しますね」
「うん」
「と言っても、霧島さんは戻って来てからはあからさまなのはしてないんですよね」
瑠伊が人差し指を顎に当てて思い出すように話す。
「戻って来てからは翔利君に話しかける事の方が大切だったみたいで、私に興味は無かったみたいなんです」
「でも瑠伊の事意識はしてたよね」
「そうですね。でも言ってしまえばそれだけなんです。翔利君話していたので、私が一人でお手洗に行っても何も無かったですし」
瑠伊の表情が特に変わらないから本当に何も無かったのが分かる。
少なくともこの数日は。
「つまり、前までは一人で居たら何かされてたって事だよね」
「前は常に一人だったのでそれなりに」
そう言って瑠伊はなにをされてきたのかを話してくれた。
トイレに行ったら付いて来られてトイレに入らせて貰えなかったり、やっと入れたと思ったら上から物を投げ込まれたり、酷い時は水をかけられたりしていたらしい。
ものを隠されたのは数え切れない程で、教科書に落書きされたり、聞こえるように悪口を毎日のように言われ続けたと。
その他にも色々と。
「やる事が幼稚だけど、やられたら辛いよね」
「そうですね。でも家に比べたら文字通り子供のお遊びなんですよ」
「そっちは聞かないでおくよ」
「はい。私も思い出したくないので……」
瑠伊の顔が一気に暗くなった。
「まぁ今同じ事をやられたら折れちゃいますけどね」
瑠伊が作った笑顔で言う。
「瑠伊を一人にはしないから安心してね」
「はい」
今度はいつもの笑顔を向けてくれた。
「でも私と翔利君が学校に一緒に来てるのとお話してるのを見てるのに何も無かったのは何でなんでしょう」
「それは多分余裕だよ」
いつも通りお茶を飲みながら聞いていた華が答える。
「余裕?」
「傍から見たら瑠伊さんは翔利から嫌われてると思われてるんだよ。だから一緒に来てるのは罪滅ぼしで、話してるのはポイントゲットか翔利の優しさに甘えてる通って思われてるんじゃないかね」
「俺が瑠伊を嫌うとかありえなくない? むしろ俺が瑠伊から離れられなくなってるのに」
「私もですよ」
「これはひ孫を見れるのもすぐかね」
また華の悪い癖が出て翔利はため息をつく。
瑠伊はそれを聞いて「翔利君次第ですね」と翔利には聞こえない声で言った。
「話に割り込んでごめんね」
「いえ。えっと霧島さんは多分もう何もしてこないと思うので大丈夫ですね」
「本当に?」
「好きだった人に人格否定されるのは結構辛いものですよ?」
翔利は瑠伊に自分を否定されたらどうなるかを想像してみた。
「うん、泣きそう」
「だから多分大丈夫です。少なくとも翔利君を好きなうちは何も出来ないと思います」
「俺を好きとかいうのがおかしいけど」
「私はおかしいですか?」
「瑠伊は俺が嬉しいからいいの」
翔利は自己評価が低い。
と言うよりかは自分の性格がいいものではないと理解している。
だから自分を好きというのがよく分からない。
「私からしたら私を好きって言った翔利君が最初は意味が分からなかったですけど」
「瑠伊は可愛いもん」
「そう言ってくれたのが両親以外で翔利君と華さんだけなので」
「見る目が無いんだよ」
翔利からしたら意味が分からない。
瑠伊は初対面の時から綺麗だった。
「話逸らしてごめん。担任の方に戻そ」
「はい。あの人は霧島さんよりかは酷くはなかったですね」
瑠伊はまた顎に人差し指を当てながら言う。
(あのポーズ可愛い)
翔利はそんな事を考えながら瑠伊の話を聞く。
「呼び出しはほとんど毎日あったんですけど、話しかけてきてたまに触ったりするだけだったので」
「……」
「華さん、翔利君の頭を撫でてもいいですか?」
「私に聞くのかい。いいよ」
華の許しを得てから瑠伊は翔利の頭を撫でた。
理由は単純で、瑠伊の話を聞いて『触った』と言った瞬間に翔利がキレたからだ。
「大丈夫ですよ。嫌悪感はありましたけど、触られるだけなら何も感じなかったので」
「あいつの人生終わらせる」
「もうほとんど終わってるから大丈夫ですよ。あ、そうだ」
瑠伊の顔が優しい笑みからいたずらっ子のような笑みに変わった。
「翔利君が上書きしてください」
「上書き?」
「結局一緒に寝てくれなかったので今日は一緒に寝ましょう。そして私が触られたところを翔利君が触って嫌悪感を高揚感で上書きしてください」
「……えと」
翔利の顔が一気に赤くなる。
「前は翔利君が恥ずかしがって無しになったんですからね。翔利君から誘ってきたのに」
「だって瑠伊と一緒に寝るのか無理でしょ」
「私が隣に居ると不快ですよね……」
瑠伊が落ち込んだように俯く。
「そうじゃないの分かってるくせに」
「分かりません。なんでですか?」
「瑠伊の意地悪。可愛い瑠伊が隣に居たらドキドキして寝れないでしょ」
何故か瑠伊が嬉しそうに翔利の頭を撫でた。
「昔は照れてくれたのに」
「翔利君の可愛さが勝ってそれどころじゃないんですよ」
「瑠伊嫌い、嘘だけど」
翔利がそっぽを向いたら瑠伊が反対側に回って笑顔で頭を撫でた。
「うぅ……」
「翔利君可愛い」
「あの翔利がされるがままに。見てて面白い」
翔利が華に「裏切り者……」と小声で言うと、華が「諦めな」と言ってお茶を飲んだ。
「絶対瑠伊を照れさす」
「翔利君も私の頭を撫でたりすればいいんですよ。そうしましょ」
「いいの?」
正直に言うと、翔利は瑠伊の頭を撫でたくなる時が多々ある。
だけどいきなりそんな事をしたら嫌われるかもしれないからと控えていた。
「私は翔利君からされる事ならなんでも嬉しいです。なので気にせずになんでもしてください」
「言質取ったからね」
翔利はそう言って瑠伊を抱きしめた。
「え?」
「ずっとこうしたかったの。瑠伊を強く感じたくて」
翔利は瑠伊に飢えていた。
それが瑠伊の「なんでもしていい」によって全てが満たされる事になる。
「癒される」
「あ、あの翔利君。決して嫌ではないのですけど、離れていただく事は?」
「やだ。瑠伊がいいって言ったんだからね。しばらくこのまま」
「……嬉しいですけど」
瑠伊が小さい声でそう言うと、翔利が力を少し強めた。
立場は逆転し、今度は瑠伊の顔が真っ赤になった。
「ちなみに後どれぐらいですか?」
「三十分は欲しい」
「……いいんですけど、あれです。三つ目のお話が」
「このまま聞く」
「雰囲気がですね」
「やだ」
翔利が駄々っ子のように聞き分けが悪くなる。
「これは一周まわって可愛いからいいのでは? でも私の思考もおかしくなりそうです」
「翔利。ベッドでも優しくするんだよ」
「うん」
華の言葉に瑠伊の顔がより赤くなる。
もちろん華は勘違いさせる意味合いで言っている。
面白いから。
「三つ目は?」
「こうなったら自棄です」
瑠伊は決意を決めて息を吐く。
「三つ目は翔利君気づいてないですよね?」
「うん」
「私が隠してたので気づかれてたら駄目なんですけど。三つ目は机です」
「机?」
瑠伊に言われて思い返してみれば、瑠伊は翔利が瑠伊の席に目をやろうとすると鞄を置いていたり、常に教科書を置いていたり、お昼の時はお弁当箱の包みを広げていたりと、翔利は瑠伊の机の表面を見ていない。
「前からだったんですけど、戻って来た時には更に増えてたんです。翔利君に見せたら絶対に怒ると思って隠してたんですけど」
「絶対にキレたね。やった奴見つけ出して空いてる机と変えさせて瑠伊に土下座させてたかも」
「翔利君なら本当にやりそうですよね」
「やるよ? 見つからなかったら俺のと変えればいいし」
担任に言っても意味はないから自分達でなんとかするしかない。
だから見つけ出してどうにかするか、翔利と瑠伊のを変えるしかない。
「なんで私と翔利君のを変えるんですか?」
「瑠伊の気持ちの問題もあるけど、机に悪口を書くなんていう根暗な事をする奴って第三者に介入されるの嫌いなんだよ」
見えるところで見えるように味方をすれば『見られている』という気持ちから虐めをやめるか対象が移る。
悪化する可能性もあるけど、その時は逆に証拠を押さえて社会的に殺せばいい。
「私は翔利君に対象が移るのは嫌です」
「それこそ一本釣りで楽だけどね」
「嫌です」
瑠伊が悲しそうな目で翔利を見る。
「分かった。瑠伊の悲しむ顔は見たくないからね」
「ありがとうございます。でも多分大丈夫だと思いますよ」
「と言うと?」
「担任の先生がどうなるのかは分からないですけど、あの人はもう私達に逆らえません。それと翔利君は知らないと思いますけど、翔利君は大半の女の子に好意を持たれているので私を影で虐めている人達もやめると思います」
翔利は女子に好かれているのは知らないけど、確かに担任がまともなのになるか同じのなら瑠伊の机があんな状態ならどうにか出来るかもしれない。
「てかやってる奴ら分かってるの?」
「はい。私と翔利君が学校に復帰した日に先に居た人達です」
確かにあの時は数人の男女が居た。
誰にもバレずにやるには朝の早い時間が一番いい。
だけどそのせいでバレているのでは意味はないが。
「霧島達は違うの?」
「霧島さんはもっと大胆にやるので違います。ちなみに後ろにいた人達は悪い人ではないですよ」
どうやら取り巻き達は霧島に無理やり従っているようで、霧島がいないところで瑠伊に謝っていたらしい。
謝ったからといって許される訳ではないが、翔利の中で少し評価が上がった。
誰かは覚えてないが。
「なので私の問題は全部解決しました」
「後は逆恨みが無ければってとこね」
「それは翔利君が守ってくれるんですよね?」
瑠伊が上目遣いで聞いてくる。
「約束する」
「危ない事をしたら嫌いに……なれないので怒りますね」
「怒るだけ?」
「その後にいっぱいありがとうをして、いっぱい翔利君を癒します」
「そんな事言われたら危ない事したくなるじゃん」
翔利が冗談でそんな事を言うと瑠伊に睨まれた。
「ちなみに危ない事をしないで守ってくれたら怒らないで癒します」
「怒った瑠伊も見たくなったら?」
「じゃあ怒るのと次いでに翔利君の言う事を聞かなくなりますね」
「絶対に危ない事はしません」
もしも今みたいに抱きしめる事や頭を撫でたり手を繋ぐ事が出来なくなったら、翔利は普通に落ち込む。
「約束ですよ」
「約束する」
そうして二人で笑い合う。
「仲のいい事で」
華はそう言ってお茶を飲んだ。
二人の熱に当てられたのか胸に手を当てている。
そうして二人は気の済むまで抱きしめあい、二人同じ布団で寝た。
正確には寝れなかった瑠伊がいつの間にか翔利の腕を抱いて可愛い寝息を立て始めたせいで、翔利は心臓の音がうるさくなり一睡も出来なかった。
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