終章

また一日が始まる。

 時に人を助けて、時に人を殺すことになる。

 きっとこの仕事をそういう見方で見る人なんてそういないだろう。


 気がつくと、どこかの屋上にいた。高いということだけを理解できる。

 15階くらいかな。

「何してるんですか!」

「どうしてここに?」

「通勤中に見かけたんです。でも逆方向に行くから…………」

 屋上の入り口のところに、佐藤さんが立っていた。

 なんでここいいるんだろう。追いかけてきたのかなあ。

 もしかして飛び降りようとしている?私が。まさか。

「私はただ――」

 気がつくと、目から涙が出ていた。

 なんだろう。

 戻ろう。

 彼ならきっと助けてくれる。

 私が立っていたのは屋上の縁。一段高くなっていた。

 降りようとしたが、段差に気が付かなかった。

 バランスを取ろうとする。後ろに倒れる。

 転倒した。

 後方に。


 それが遠くなっていくような感覚。落ちているんだ。

 佐藤さんの声がする。


 数秒後広がっていたのは、血に濡れたアスファルトだった。

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生きるてんとう虫 月簡 @nanasi_1

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