第2話友人の頼み

「なあ隆ちゃん隆ちゃん、ついて来てくんない?謝礼、するから。なっ」

「えぇー、三津樹がしでかしたのを俺が火消しすんの。俺にまでとばっちりがくんの、目にみえてるからなー」

「そこをなんとかっ!なっ、隆ちゃん。マジで謝礼弾むからっ!」

周囲の視線を気にすることなく、目を瞑り顔の前で両手を合わせ懇願してくる友人——東雲三津樹の要請を断ろうとする。

「うーん……謝礼って?」

「隆ちゃんが欲しがってたバンドのアルバムです……」

低く唸りながら謝礼がどういうものかを訊かれた東雲が、反応を窺うようにおそるおそるといった風にこたえる。

「……ん。仕方ない、ついて行く。楓のご機嫌とりを成功させたら良いんだな?」

「え……あ、うん、そう。ありがとう、隆ちゃん」

東雲が瞑っていた目を開けて、想像した反応とは違ったように遅れた返事をした。

「じゃ行くぞぅー、三津樹ィー。まぁ、アテはあるな。オイ、要請してきた三津樹がのろのろしてんなよ!さっさと来いィ」

俺は感謝の言葉を聞いて、椅子から腰を上げて教室を出て行こうとする。

背後に一人分の足音がせずに教室を出る寸前の扉付近で立ち止まり振り返った俺。

椅子から腰を上げてもいない間抜けな顔で俺を見つめていた東雲に、ついてくるように急かした。

「あ、ああ……悪い、隆ちゃん……」

現在の状況に理解が追いついた東雲が駆け寄り、二人で教室を出て廊下を歩き出した。

数人の生徒とすれ違っていく。

彼が後頭部に指を組んだ手をつけ、横幅をとりながら話し出す。

「以前さぁ〜ピンクを基調としたカフェで隆ちゃんを見たって何組か知んない女子らが噂してたの聞いたんだけどー」

「あぁー、付き合ってんのかってのもセットで聞いたか?」

「いんやー、それは知んない。へぇー、誰か知んない女子と行ったんだぁー」

「オマエには楓という可愛い恋人がいんじゃねーか!呆れるわー」

「んなんじゃねーって!俺と隆ちゃんの仲なんだし、どんな女子かくらい教えてくれてもいいじゃねーのっ!?薄情じゃねーか」

「横暴な野獣と似たような女子

「そう……」


下駄箱にさしかかる放送室と職員室の間の掲示板が視界に入り、足をとめて掲示板に向かい合う。

「隆ちゃん、どうしたよ?いきなり」

「……なんでもない。噂、噂ねぇ……」

「おいお前たち、どうかしたか?」

背後からのぶとい声が聞こえ、振り返る俺と東雲。

「いえ、なんでもないです……」

「びっくりしたぁ……」

白衣を羽織った中年の男性教諭——樫城孝治かしぎたかはるがいた。



「大丈夫か?」

校門を抜けると、東雲が顔を覗いてそう訊いてきた。


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