第三話 逆境の日本張型道

『へえ、ここが日本の学校か。田舎のサルにはお似合いの狭さだな』

『そうは言ってもぼっちゃんの身長は日本の平均中学生未満ですから十分な広さですよ』

『うるさい! オレにとってじゃなくてアメリカ代表としての意見だ!!』


 この口が悪い金髪碧眼ツインテールでピンクのフリフリゴスミニスカ浴衣を着ている小学生みたいな人が昨年優勝者のティバル・フェス・ウタマロさんで、隣の冷静な突っ込みが冴える青髪マチルダボブのメイドさんがイケ助手のエリザベスさんだ。

 二人ともとても美人だけど、ティバルさんは男性と分かってもエリザベスさんは中性的でどちらかは分からない。田縣たがたくんも見た目は女の子だし、張型道関係者はみんな女装が似合うんだろうか。

 ちなみに、僕がここに居るのは田縣たがたくんの試合が気になるのもそうだけど、英語の成績が良すぎた為に先生達から急遽「交流試合に来る生徒の案内をしろ」と頼まれたからだ。まさか学術書からいかにエロティックな植物は何かを調べる為に覚えた英語がこんな所で役に立つなんて夢にも思わなかったな。


『おい、デカぶつ。さっさと会場に案内しろよ。日本じゃアメリカのマグナムに勝てないって事を分からせてやるからよ。ハッハッハ』

『ぼっちゃん。どうせ分からないだろうからと好き勝手言っている様ですが、この方は英語を理解されてますよ」

『ワッツ?』

『ファッキンジャパニーズぐらい小学生でも分かりますよ』

『あ、あわわわ…』

『すみませんミスター。ぼっちゃんは本当はミジンコメンタルのクソザコナードなのですが、アメリカ代表ならこういう言葉使いが必要だろうと勝手に思い込んでおられまして…』

『思秋期にはよくある事ですよ。気にしていません』


 なにやらガタガタと震え出したティバルさんと、メイド服の裾をがっちりと掴んだティバルさんを鬱陶しそうにするエリザベスさんを引き連れて、僕は会場である体育館へと向かう。

 ティバルさんとエリザベスさんは何やらヒソヒソと会話をしているけれど、僕にはそんな事よりも田縣たがたくんがちゃんと僕の雄蕊から型を取った張型をイケる事が出来るのかが心配で仕方ない。

 なぜなら、型を取った後に田縣たがたくんに相談された内容が、


「おちんちんが……光らないんです……」


 という物だったからだ。

 今日の交流試合のメインは田縣たがたくんとティバルさんの勝負みたいだし、それまでになんとかなって欲しい。

 折角、あんな恥ずかしい事までしたんだし。田縣たがたくんに勝って貰わないと僕としては立つ瀬がないのだ。




◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆




「では、攻め手。ティバルさん。イッて下さい」

『オーケイ!』


 ティバルさんを会場に案内後、僕は一般席ではなく関係者席に座らされ、田縣たがたくんの様子は愚か校内菜園を見に行くこともままならないまま、着々と張型道の交流試合は最後のティバルさんと田縣たがたくんの試合まで進んで行った。

 これまでに行われた交流試合の作品はそのまま体育館のステージ上に飾られていて、その手前にイキ合いをする両者の作業場と色々なお花達が置いてある。この大量のお花達は交流試合の為に日本張型道の偉い人達が用意したものらしく、流石のエロティックさと儚さで僕の雄蕊はエレクチオン寸前だ。

 ぶっちゃけ、僕はお花だけで十分エロく見えるので、わざわざ張型と一緒にイケずともそのままでいい。逆に張型道の作品は全く股間にピンとこないぐらいだ。そんな物より僕にとっては瑞々しく実った野菜達の方が芸術的だし、今日辺りはピーマンがとても艶やかに実る頃合だから収穫とエア受粉に行きたいというのに、県や張型道の偉い人も来ている練習試合だからか中々抜け出す隙が無い。


「大会委員長。ぼっちゃまから質問がありますがよろしいでしょうか?」


 僕が周りの隙を伺っていると、ティバルさんのイケ助手を務めるエリザベスさんが流暢な日本語で何やら偉い人に向けて話しかけている。


「なんじゃろう?」

「エット、イインチョウサン。ココニアルノ、ドレツカッテモイイデスカ?」

「よいぞよいぞ。この会場の物は全部好きなように使ってよい」


 辿々しい片言で恥ずかしそうにするティバルさんの質問に対して、大会委員長と呼ばれる女装をしたお爺さんはとてもにこやかに返答をする。


『おいリズ。聞いたか。全部使っていいってよ。』

『ええ、伺いました』

『じゃあ、お望み通り使やろうじゃないか!』


 ティバルさんがそう言うと、エリザベスさんはステージから降り、体育倉庫から跳び箱やマットを運び出し、ステージに山を作り出す。

 これには会場の何人かがどよめいたけど、委員長であるお爺さんが許可を出したからか止める人はいない。

 暫く後、ステージの上に体育道具の山を積み上げたティバルさんは、最後に山の上から体育館の窓の大きめなカーテンをふわりとかけ、イケる様に用意された花を隙間に差し込んだり、周囲に立たせたりとする。

 そして、用意された花の大半を使った後、ステージに飾られていたを山に乗せていく。


「えっ?」


 疑問の声は僕だけじゃなかった。

 張型道関係者も閲覧席の観客たちまでもが声を出し、ティバルさんとエリザベスさんの行為に驚きの目を向ける。


「お、おい、委員長は全てと言ったがそれは…」

「よいよいワシが許す」

「い、委員長!?」


 ティバルさんが次々に山となったオブジェに作品達を乗せていくのをスタッフらしき人が止めようとするが、それを委員長のお爺さんがにこやかな笑顔でそれを制する。

 素人目に見てもこれは暴挙の様に見えるのだけど、問題無いのだろうか。そして田縣たがたくんは大丈夫なんだろうか。さっきから目を瞑ったままで微動だにしていないし。


『後はメインを置くだけだな』


 とうとう最後の作品と用意された花を全て使いきり、ステージの上に花とディルドーの山とも呼べる作品を作り出したティバルさん。

 しかし、まだ完成ではないらしく、ティバルさんは山の天辺に腰かけ、何やら小刻みに震え始める。


『ん、んぅ…ふぅぅ……』


 そして、ティバルさんが荒い息を吐きながらゆっくりと腰を上げて立ち上がると、そこには虹色に輝くとても太くて大きなゲーミングおちんぽが粘液でテカりながら勃っていた。


 多種多様な色彩の花に包まれ、

 様々な形のディルドーに囲まれ、

 その中で一際高く、太く、長細く、

 1680万色のグラデーションに輝いて、

 山の天辺から麓までの全てを照らすゲーミングおちんぽ。


「美しい…」


 気が付けば僕は言葉を漏らしていた。

 体育館にあった花全てと、イケられた作品達を全て使って表現された、花と張型の祭壇。

 天辺にあるゲーミングおちんぽは自分が主役だと主張しながらも、周囲のお花達やイケられた張型を輝かせ、それぞれの魅力を1680万色の輝きで照らし出す。

 周囲お花達や張型はその光を浴びて自分の魅力最大限にアピールしつつも、中心に聳えるゲーミングおちんぽの事を際立たせようと担ぎ上げている様に見える。

 花と張型とゲーミングおちんぽ達がお互いに魅力を引き立てている。

 正におちんぽの祭典だ。こんな美しい物は今まで僕は見た事無い。

 おかしい。僕は野菜や果物にエレクチオンする体の筈なのに……


『俺の作品はこれで完成だ。さあ、イケる花が無い状態で日本張型道がどんな物を作るのか見せて貰おうじゃないか』

『技術はあるのに本当に性格が悪いですよね。ぼっちゃんって』

『うるさいッ!!』


 ティバルさんとエリザベスさん達はそう言いながら自信満々にステージ上の自分の席へと戻った。

 よく見るとティバルさんは息が荒いし顔が赤いし若干足元がふらついていてミニスカートから覗く足の間が粘液でテカっている気がするが、きっと僕の見間違いだろう。

 というか、ティバルさんが全ての花を使ってしまったのに田縣たがたくんにどうしろって言うんだ。


「では、受け手。田縣たがたさん。イッて下さい」

「はい!」


 僕の不安なんてなんのその。凛とした声を出し、瞑っていた瞳を開けて面を上げる田縣たがたくん。

 その顔はとても澄んだ瞳と恍惚の表情をしていた。

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