第2章(その4)

「デルタ中隊、発艦エリアに移動」

 同時に戦闘艇が動き出す。戦闘艇は耐爆ハッチを抜け、戦闘艇母艦の舷側に展開されたリニアカタパルトに移動。

「デルタリーダー、カタパルト進入」

 デルタ中隊長であるわたしの戦闘艇がカタパルトにセットされる。続いて時間差を置いて射出される巡航用外部推進器がカタパルトにセットされる。

 連邦軍戦闘艇DSTP201「ランサー」は連邦の基本的なデザインである角柱型の主艇体の艇首に37センチ口径の粒子砲一門、下舷に7.7ミリ口径のレールガン一門を備え、左右両舷のバルジの上下面に2基ずつ計8基の対艦ミサイルを搭載している。粒子砲、レールガンは主に駆逐艦やフリゲート艦などの小型艦艇や非武装船艇を襲撃する際の主武装となる。巡航艦以上の大型艦に対しては8基の反応弾頭対艦ミサイルが頼りとなる。

 とはいえ、戦闘艇や機動艇が対艦ミサイルで敵の大型艦艇にダメージを与えることができる可能性はあまり高くない。なぜなら護衛のフリゲート艦や戦闘艇を突破して対艦ミサイルを発射できたとしても、発射した対艦ミサイルが個艦近接防御システムの火網を突破できるかは別の問題だからだ。

 対艦ミサイルの機動用スラスターの推進剤は限られており、回避機動には制限がある。多弾頭化されているので弾頭が分離すれば多少は可能性が上がると言った程度だ。

 それでも戦闘艇や機動艇が対艦ミサイルを使用するのには理由がある。端的に言うと、搭載しているレベルの粒子砲やレールガンでは大型艦艇の装甲を貫徹できず、大型艦艇にダメージを与える可能性がある武装が対艦ミサイルしかないからだ。徹甲弾頭が防御火網を突破できさえすればダメージを与えられる。

「発艦指揮所より、デルタリーダー。デルタ中隊の射出を開始する。加速に備えよ」

「デルタリーダー了解」

 加速に備えるも何もWAPを着て固定されたわたしにできることは身構える以外、何もない。

 戦闘艇母艦のリニアカタパルトから戦闘艇が射出。射出のGが全身にかかる。Gが抜けて思わずほっとしたタイミングで続けて射出された巡航用外部推進器とのドッキングシークエンスが自動実行される。順次射出された中隊16艇すべて同様に外部推進器とドッキング。中隊各艇の航法システムと同調完了。巡航フォーメーションをとる。航法システムは外部推進器の反応炉に推進剤投入、巡航加速開始。

 戦術リンク上の各艇の状態が更新される。デルタ中隊、全艇異常なし。緩やかな巡航用編隊を組み加速中。先に発進したアルファ、ブラボー、チャーリー各中隊も異常なし。5422戦隊全64艇が想定戦域へ向けて加速。

 以降、脅威情報がなければ戦域近傍まで人間の出番はない。

 代謝抑制剤の投与を開始するとメッセージが出る。

 艇体のサイズと反応炉の出力の問題で転移機構を搭載できない戦闘艇ではこういう手段を使って巡航中に乗員の心身が消耗するのを抑えるしかない。

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