第2章(その3)

 緊急招集されたブリーフィング。正面のディスプレイに現状で判明している攻勢に出た敵艦隊の勢力、進路とこれに対応する友軍の情報が表示されている。ディスプレイの表示は初めて見た人は「今どきこれはない」と唖然とするのではないかと思うほど簡素な表示だ。伝えたいことが伝わればよいし、こった表示は誤認の元になるという経験則からあえて簡素な表示になっている。敵戦力は戦艦戦隊10個を含む300隻以上の艦隊か。

 壇上に542戦隊群司令が上がる。

「敵艦隊は依然として侵攻中である。推定攻撃目標はアザンクール星域。本0320時、第五軍管区司令部は状況B2(被限定侵攻)を宣言し、緊急対処作戦計画の発動を指令した。現状では艦隊の展開が遅れているため軍管区司令部は5422、5427戦闘艇戦隊を含む各戦闘艇戦隊、機動艇戦隊を遅滞作戦に投入することを決定した。…具体的なプランは…作戦士官?」

 わたしだけじゃない。ブリーフィングに出ている全員の血の気が引く。主力艦隊が展開するまでの時間を稼がいないといけないのは判るが、300隻以上の艦隊に対して機動艇や戦闘艇を戦隊単位とはいえ投入してどれほどの遅滞効果があるのか。

 戦隊群司令に代わって陰気な顔をした女性士官が壇上に上がる。

「司令からもあったように軍管区司令部の命令により、緊急対処作戦計画に従いアザンクール星域近傍の戦闘艇戦隊、機動艇戦隊はそれぞれ、時間差をもって敵艦隊を攻撃し、敵艦隊の侵攻を遅滞させることとなった」

 画面が切り替わる。遅滞戦闘にあたる機動艇戦隊、戦闘艇母艦とその護衛艦隊の構成と泊地から進出予定エリアまでの概略針路。進出予定エリアから会敵予想エリアまでの概略針路などが表示された。

 驚いた。侵攻中の艦隊を恒星間宇宙で捕捉しようというのか。

「我が第542戦隊群の会敵予定宙域は宙域50110と想定されるがエリアは現時点では特定できない」

 まあそうだろう。最大5光年の距離を転移する艦隊を恒星間宇宙で捕捉するのは難しいというのは軍事的常識だ。一体、どれだけのリソースを突っ込むつもりだろう。

「哨戒艇隊12個隊が動員されて無人哨戒機、プローブを展開、発見、捕捉に努めている」

 なるほど、出し惜しみはしないというわけか。余計なことを。

「得られた索敵情報は随時、戦術リンクに反映される。5422戦隊は戦闘艇母艦「CV5422」に搭載、5427戦闘艇戦隊は戦闘艇母艦「CV5427」に搭載。索敵情報に基づき宙域戦闘管制の指示するエリアに進出。速やかに対艦戦闘装備で発進。会敵予想エリアまで巡航する。5422戦闘艇戦隊のコールサインはクルセイダー、宙域戦闘管制はズールー01。5427戦闘艇戦隊はセンチュリオン、宙域戦闘管制はタンゴ01だ。」

 まあ、300隻クラスの艦隊ともなれば艦種ごとに艦隊を分割しても転移機構の同調に相当の時間がかかる。襲撃できれば確かに同調作業の邪魔をして遅滞はできそうか。


 わたしは実は哨戒艇隊の索敵が空振りにおわることを期待していたのだが、見事に発見してくれた。こんな時だけは有能な友軍が恨めしい。

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