一話 文化祭前夜の窃盗事件 8
翌朝、七時に合宿所の食堂に集合することになっていた。その時間に、学食のおばちゃんが朝食を出してくれるからだ。
俺は目覚ましが鳴る前の、五時半に目が覚めてしまった。
窓を開けてベランダに出ると、まだ日が出たばかりの、気持ちのいい空気を思い切り吸った。目の前には中庭が見える。芝生や花壇があり、噴水付きの池を囲むように、たくさんの木が茂っていた。
学校を囲むフェンス沿いにも樹齢百年以上の木々が並んでいる。都会の真ん中にいることを忘れそうなほど、自然があふれた学校だった。
そんな爽やかな景色を窓越しの視界に捉えつつ、いつもより長めに朝勉強をしてから食堂に行った。すると、既にミッチーと蒼治郎、それに幸子ちゃんがテーブルに着いていた。幸子ちゃんはいつものように身体を丸めて俯いているので、小さい身体がより一層小さく見えた。
「早いね、おはよう。あれ、ミッチー、目の下にクマができてない?」
「聞いてくれよ昴! 昨夜、蒼治郎が押しかけてきてさ、寝不足だよ」
ミッチーは口に手を当ててあくびをした。まだ髪をセットしておらず、昨夜のナチュラルな髪型のままだ。
「なにやってたの?」
「トランプ」
蒼治郎はいつもの如く、乏しい表情で答えた。こっちもクマができている。男二人でなにをやっているんだ。寝ればいいのに。
決まっているわけじゃないのに、なんとなく昨夜と同じ席に着席した。だけど、いつまでたっても俺の正面が埋まらない。
「遥ちゃん来ないね。電話してみるよ」
俺は胸ポケットに手を伸ばす。合宿をする四人とは、電話番号やメッセージアプリの情報を交換していた。
「あれ、出ないな。呼び出し音は鳴ってるんだけど、あっちでミュートになってるのかな」
朝は弱いのかな。遥香ちゃんはいつも俺より先に学校に来ているから、そんな印象はなかったんだけど。
「オレ、様子を見てくるわ」
ミッチーが立ち上がる。俺も一緒に行くよ、と言いかけて、やめておいた。女の子の部屋に男がぞろぞろと行ったら迷惑だろう。
しかし、遥ちゃんの寝起きか。羨ましい。
合宿所は、一階が食堂、二階が宿泊所になっていた。四十部屋くらいあるはずで、昨夜は満室だと聞いている。
それから五分もしないうちに、ミッチーが慌てた様子で階段の手すりに現われた。
「蒼治郎、昴、来てくれ!」
呼ばれた俺たちは、顔を合わせた。食堂に集まっていたその他のグループも、何事かとミッチーに注目している。
遥ちゃんが来てからにしようと、まだ朝食を受け取っていなかった俺たちは、既に姿を消したミッチーを追いかけることにした。
「あ、あたし、も」
幸子ちゃんも俺たちの後についてくる。
二階に上がると、ミッチーが廊下で、ドアノブを握ってガチャガチャと回していた。遥ちゃんの部屋だ。
「鍵が閉まってるから、中にいるのは確実なんだけど。いくら呼んでも出てこないんだ」
ミッチーはドンドンとドアを叩く。名前を呼んでも返事はなかった。一応俺も遥ちゃんの部屋のドアを回してみたけど、鍵がかかっていて開かない。
こんなに騒がれていて起きないのだとしたら、さすがにおかしい気がする。
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