第2話

クーラーの効きすぎで喉が枯れた。冬に乾燥で喉が枯れるのは理解できるが、なぜ夏に喉が枯れるのかはまだよくわかっていない。夏風邪を拗らせるのは御免だと思い、薬局で葛根湯を買った。


「ポイントカードはお持ちですか?」


「いいえ」


これが夏休みに入って初めての会話だった。声がソプラノにならなくて良かったと安堵する。整った顔立ちで笑顔が素敵な女性の店員さんは恐らく大学生だろう。彼女と自分をを無意識に比較して髭面で殆どパジャマ姿の僕はひどく滑稽に思えた。


家に帰ると隣の部屋がやけに騒がしい。壁に耳をつけてみると、どうやら複数人でお酒を飲んでいるらしい。所謂宅飲みというやつだ。出処不明の飲み会でのみ発生するゲームが行われていて笑ってしまった。僕はお酒も飲めないし友達もいないのでこれまで飲み会に参加したこともないし、ましてや宅飲みなんて僕とは対極のイベントだったが、それに少し触れることが出来て何故か嬉しかった。


大学生とは曖昧な身分だ。勿論熱心に学問を探求している人もいだろうが、殆どの大学生がなんの目的もなく唯その日を生きている。僕もその一人で夏休みなどの長期休みはキャンパスに行かないので自分の身分がより曖昧になる気がする。この日は久々に観たい映画があったので電車を乗り継いで映画館にやって来た。券売機を前にして学割が使えることに気が付き、この学割チケットは僕が大学生であることを自覚する唯一の手段なんだと思った。

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青い 岡村丁寧 @moonskip

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