第4章 シンデレラ

ねぇシンデレラ。

僕、嫌いだったよ


君との会話

君の笑顔

君の声

君の優しさ

君の考え

君の存在が僕にとっては不快そのものだった。


でも僕は守ってた

他人から突き刺さる好奇の目から

他人の口から出てくるナイフのような言葉から

他人の心の奥にある真っ黒な想いから

他人の風のように纒わりつく笑い声から

ずっと、ずうっと守ってた。


でも君は自分から私から逃げていった

『私達は対等なものでありたかった』

そう言い残して。


全てを否定されたような気分になった

僕だって出来れば対等で居たかったさ。


でも君は、立場なんて気にするべきじゃない、アナタは大切な友達だと、そう言ってくれたじゃないか。


僕の友達にも君みたいな人はいなかった。

初めてなんだ。君みたいな人。

君はお転婆で破天荒。そして高飛車で天邪鬼。でもたまに見せる笑顔は、どんな人もひれ伏してしまう、そんな強い魅力を秘めていた。


初めてあった日、僕は君の行動ひとつひとつに強く感情を揺さぶられた。行動も容姿も僕一人を絡めとるなんて造作もないことだったのだろう。僕はまんまと君を愛してしまった。君と共に生きていたい!君のそばに居たい!君を守る騎士になる、と意気込み、まずは友達になろうと決めた。


初めは挨拶程度だったのが、日付がたち、今や2人で登下校をする仲までに成長した。他愛ない話をしながら、分かれ道までを共に歩く。これにどれほどの価値があるかなんて分からぬまい。君が僕を「恋人」と呼ぶことだって、本来ありえない事なんだ。

まるで夢のようだった。浮かれ、地に足は付いていなかったように思う。そして、次に何が起こるかなんて、とうに分かっていたとも思う。


それからすぐだった。君は僕の事を避け始めた。朝夕の登下校は愚か、廊下ですれ違っても無視。何度かクラスメイトに話しかけられたが、まるで話など出来る状況ではなかったため、全て断った。

君からは「別の人と行くから、迎えに来ないで」という内容と、「お昼も別の子とたべるから」という、メッセージが届いていた。


ああきっと君は僕を見限ってしまったのだろう。僕の何がいけなかったんだろう。

深く辛い悲しみは、君へ向けた重く熱い憎しみへと変わっていった。


こんな初歩的なことも出来ないだなんて。

表面上だけでも繕って

笑顔で笑い合うことも出来ないだなんて。

僕でもできるのに。

小さな子供でもできるのに。


予想以上にこどもだった君との別れは、

初めは僕の心をどんどん蝕んで消そうと、

穴を開けるよりタチの悪い染みを作っていた。


でもね。


最近は君の事なんか

気にもとめなくなくなった。

私は私が思っていたより多忙でね。

君の姿が見えても微笑むことが出来るよ

まあいい気はしないがね。


愛していたよ、あの空間は。

楽しかったよ。雰囲気はね。


思っていたより感想がないんだ。

当時は言葉で表せないくらい、

楽しかったハズなのに。

愛していたハズなのに。

今考えるとあまり楽しくはなかったのかな。


やっぱり別の子が好きだったのかな。

やっぱり君じゃなかったのかな。

やっぱり全部知ってたのかな。

やっぱりどうでもよかったのかな。


今でも君の姿を夢に見るよ。

君はあの頃のように癖毛を気にしながらも運動が下手な僕にテニスを教えてくれているんだ。ラケットの握り方、素振りも、まるで友達に教えるかのように、冗談交じりで楽しそうに。

もうそんな日が来ることが二度とないことを起きる度に実感する。涙が止まらなくて、何度も何度も君に会いたくて、死んでしまいたいと強く願う。


君はあの後、帰らぬ人になった。

投身自殺だ。

あの君が絶対に自死を選ぶわけが無い、君の友人を強く問いつめたことを許して欲しい。

塾の帰りにレイプされたんだね。

苦しかったでしょう?痛かったでしょう?悔しかったでしょう?気づかなくてほんとうにごめんね。俺が全部終わらせてくるから。もう少しだけひとりで待っていてね。

僕は君の全てを愛している。

この手紙、君に届くといいな。



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現代童話集 狐偽 灯音 @kogiakane

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