第48話 幽霊撮影コンテスト(4)
ISCOの本部である宇宙ステーション「ISCOネクサスセンター(ISCO Nexus Center)通称:ネクサス」ではスタッフが天手古舞いになっていた。
「さすがに対応案件が多すぎるか」
アビオラCUEOが独り言ちる。
ゴーストマター関連だけでも「ゴーストマター観測装置」「ゴーストマター計測装置」の開発。ゴーストマター検証のための各種動物実験にゴーストマター実現化への取り纏め。反霊子まで含めるとアンチマターの仮説から実用化までのロードマップに、ブラックホールエンジン使用前提の「アンチマターバッテリー」の開発準備。さらに表沙汰にできないゴーストマターによるクローン開発支援。CUEOが一人で管理しているわけではないが、報告に目を通すだけでもバカにならない時間を取られる。
しかも国家からの要請や、企業や研究団体の監査、加盟申請の審査などの通常業務も滞らせるわけにはいかない。一人のスタッフが何件も掛け持ちなのは平常運転。それでも限界突破はまもなく訪れるだろう。
ISCOのスタッフは決して少なくない。加盟しているのが国家に企業、研究団体と多岐に渡っているので「少数精鋭」ではなく、ISCOは「多数精鋭」なのだ。アビオラCUEOの人望と人脈によるものなのだが、それでも人員は十分ではない。
今回のISCO主催「幽霊撮影コンテスト」は博打のようなものだ。ISCOの理念は「地球上のことに関与しない」ことなのだから。しかし「反霊子」の発見は、宇宙での実験に期待するよりも地球上で探す方が合理的だ。地球での幽霊に関する事例は宇宙とは比較にならないのだ。「背に腹は代えられない」とまでは言わない。宇宙での実験でも、時間を掛ければゴーストマターの実用化まで漕ぎつけることは可能だろう。
きっかけはエクセル・バイオの総帥「ヴィクトール・クローネル」の言葉「そろそろ『アメ』が必要です」にあった。総帥の主張は正論だ。ならば中途半端はよくない。重力波技術を地球に解放するならば、重力波を必要とするゴーストマターに関する案件も開放すべきだとCUEOは考えた。ただし地球側に丸投げはできない。よって「幽霊撮影コンテスト」に多数のISCO職員を回すことになった。現在の人員不足はこのためでもある。
「みんな頑張れ。宇宙じゃ使いようがないかもしれんが、報酬アップは約束しよう」
「お金なんかいいから、お肉食べさせてください」
「あと美味いワインもよろしくです」
「新鮮なサラダも付けてくださいよ」
「みんな金より食い気か?」
「毎日栄養食も太らないからいいんですけどね。たまには美味しいものを食べたいです」
「酒も飲みたいですよ」
「わかった。じゃあアンチマターが見つかったら、みんなで盛大にパーティをしような」
「「「やった~!!」」」
「幽霊撮影コンテスト」の成果は続々とネクサスに飛び込んでくる。その中には地球に派遣していたISCOスタッフよりの「反霊子発見」の報告も混じっていた。OSRによる検証と再現も確認済みだ。
西暦2425年。ついにアンチマターである「反霊子」が発見されたのである。
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