第47話 幽霊撮影コンテスト(3)
100を超える応募の中から、SSDカメラが幽霊を撮影したと思しきものは10台ほど。ISCOのスタッフとOSRの科学者、それからプロミナとイリュミナの光学技術者が手分けして再現撮影に赴いていた。しかし主催者側で実際に幽霊を撮影できたものはなかった。例えば「ロッキー山脈の麓にて撮影」と報告があっても、応募者の撮影場所の特定が困難だったためである。
1週目の確認作業は空振りに終わり、次の応募締め切りは1か月後となる。そこでようやくプロミナレンズ製のSSDカメラでの応募が届いた。
「早速、このカメラから検証しましょう。プロミナさんのカメラがどのように高性能なのか、見せてもらいたいですな」
「しまった。ハードルを上げ過ぎてしまいましたかな?」
プロミナレンズの技術者が笑顔で、関係者を引き連れ解析ルームへと足を運ぶ。
「我が社のSSDカメラは三つのレンズ機能を同時に作動させることで、三種類の映像を残します。一つは暗視機能を含む『光学撮影』、二つ目は『サーモグラフィ』、そして三つ目が時空の歪みを映す『SSD撮影』です。さらにGPS機能も備えることで、撮影場所を特定することも容易となります」
「え?それだけの機能を付けたのに、ウチの5倍程度なんて安すぎませんか?」
「はい。ISCOから開発費を援助してもらいましたが、最終的には赤字でしょうね」
ブラックボックス内の解析映像をプロジェクターに移す。画面は暗視カメラ映像となっていて、左下には日時と緯度経度が記されていた。
「この映像をサーモとSSDに切り替えることが出来ます。映像解析はしやすいはずです。あ、これは『当たり』のようですね」
映像をSSDに切り替えると、サーモグラフィでは異常がないところがわずかに歪んでいた。
「SSDは熱による空気の揺らぎも検出することがあるんですよ。この撮影場所は時空が歪んでいる可能性が高いです。重力波でゴーストマターを焙り出せるかもしれません」
「確かにこれは『当たり』のようですね」
OSRの科学者が邪悪な笑みを浮かべた。
「よし、すぐに検証班を現地に向かわせましょう。重力波発生装置も忘れずに。誰かフューチャーネットに協力を要請してください。私はISCO本部に連絡します」
ISCO幹部の言葉に、関係者が慌ただしく動き出した。
「あの・・・」
イリュミナの技術者がプロミナレンズの技術者を呼び止める。
「なぜ、ここまでできるんですか?」
プロミナレンズと言えば営利に目ざとい、徹底した合理主義の企業として有名だった。しかし今回のSSDカメラに関して、彼らは採算度返しの姿勢を見せた。イリュミナの技術者が不思議がるのも無理はない。
「今回のコンテストの客はユーザーではなく、ISCOです。ISCOの真の目的は幽霊を探すことではありません。仮説でしかない『アンチマター』を探すことですから。まあ、ここで赤字になってもアンチマターを見つけられれば、ISCOは大きな見返りをくれるはずです」
「え?ISCOとはそういう契約なんですか?」
「ハハハ、契約はイリュミナさんと同じです。見返りの保証はありませんよ。ただ・・・」
「ただ?」
「ISCOのアビオラCUEOはそういう人です」
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