第49話 反霊子

 プロミナ製SSDカメラによる応募の中で、他とは違った映像が映っているものがあった。東欧の廃屋敷。古来より「幽霊屋敷」と呼ばれ、ラップやポルターガイストなどの怪現象が起こるとして有名な心霊スポットでの撮影のようだ。実は同じ場所で撮影されたものは過去に多数の応募があった。SSD映像によって幽霊の確認はいくつかできたものの「反霊子」としての確認はできていなかったのである。

 しかしスタッフたちが見ている映像は、光学映像の時点で幽霊がはっきりと映っていた。

 「データを見せてください。・・・なるほど。『エクソシスト(Exorcist)』を連れていたのですね」

 オカルトサイエンスリサーチセンター(通称:OSRC)の科学者が呟く。

 25世紀の現代でも宗教的な信念が未だ存在しており、一部の宗教団体は高度なテクノロジーを用いて「エクソシスト(Exorcist)」の役割を果たす特殊なグループを維持していた。彼らはゴーストマター発見以後、科学的見地を取り入れた理論的な   「悪霊祓い」を世界各地で実施している。

 「映像を見る限りですが、この応募者はエクソシストによる悪霊祓いで幽霊をわざと怒らせたようですね。元々ここの幽霊は悪霊ではなく、浮遊しているだけのおとなしい幽霊だったのです。それが悪霊化して、御覧のように『可視化』されたようです」

 映像では怒りの形相の幽霊の周りを、部屋に会った小物や小石が舞っていた。ポルターガイスト現象である。

 「興味深いのはサーモ映像です。ほら。幽霊が映っているところと小物が舞っているところです。不自然なほど極端に温度が下がっているでしょう?」

 光学映像とサーモ映像を重ね合わせると、OSRCの科学者が指し示すところが青白くなっていた。

 「恐らく、推測ですが幽霊の表面は『反霊子』化して、ナノレベルの対消滅をしているんじゃないかと思うんです。青くなっているのは、対消滅エネルギーが冷却化の方向に働いているんだと思います」

 「対消滅エネルギーが冷却化?」

 「そ、そんなことがありえるのか?」

 スタッフたちから驚愕のざわめきが次々と起こる。

 「これは是非とも再現撮影をしなければなりませんね」

 震える声でISCOの職員が言うと、OSRCの科学者が続いた。

 「私の伝手でエクソシストをご用意しましょう」

 「では私たちプロミナレンズは開発中の改良型SSDカメラを使用できるように準備します。これは凄い発見になりますよ」


 こうして検証の結果、OSRCの科学者の推測通り「反霊子」は発見されたのである。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る