第13話 公開実験(2)

 「まもなく『ブラックホール生成成功の再現実験』がはじまります。なお実験中は予期せぬアクシデントの可能性もありますので、席を離れることなく、お近くの係員の指示に従うよう、お願い申し上げます。繰り返します。まもなく・・・」

 着席した来場者のヘッドセットに無機質な女性の声のアナウンスが流れた。

 モニターにはいくつも管が繋がれた金属の球体が映し出されている。

 「ご覧いただいているのは『ブラックホール生成装置』通称『ウォールカプセル』と呼ばれている実験設備です。こちらは最大500kgの重水素と500kgの三重水素の核融合にも耐えられるように設計されています。厚みは約300mmですが、この厚みによって核融合反応のエネルギーをしっかりと収容し、安全性を確保しています。ウォールカプセルはモリブデン合金で作られており、この材料が高い強度と耐熱性を保証しています」

 ほう、と来場者からどよめきが漏れる。来場者のほとんどは核融合発電の技術者や重鎮なので、設備の部材や仕組みについて興味深かったようだ。

 「続きまして、ブラックホール生成プロセスを説明いたします」

モニターのウォールカプセルが輪切りにされた。

 「50㎏の重水素と50㎏の三重水素をウォールカプセル内壁より注入します。超伝導体のコイルによる磁場で圧縮、核融合反応によるプラズマを発生させます」

 モニターには輪切り状態のウォールカプセルの中に、白いガスと青いガスが広がっていき、混ざり合いながら中央に固まっていく。すると中央が黄色く光り出す。

 「次に100テスラの磁場を超伝導体のコイルで発生させます。この強力な磁場によって、プラズマは直径1mの球体状に圧縮されます。磁場はプラズマを収束させる力を持ち、高い圧力をかけることで核融合反応を促進させます。磁場圧縮はプラズマの温度と圧力を上昇させ、ブラックホール生成のプロセスを効率的に進めるための重要なステップです。」

 一瞬だけ広がりかけた黄色く発光したプラズマモデルが、徐々に小さくなっていく。

 「直径1mになったところで重力子線をウォールカプセル内壁より、プラズマの表面に均等に照射します」

 輪切りの内側全面から黒い点線がプラズマモデルへ向けて伸びていく。

 「10GD/sで1秒照射した後、徐々に出力を上げ、5秒で100GD/s照射します」

 黒い点線の幅が広くなり、黄色いプラズマモデルは黒い点に変化。黒い点線も同時に消えた。

 「直径0.3㎜・質量100㎏のブラックホールが生成されました。以上で、ブラックホール生成プロセスの説明を終了いたします」



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