第9話 重力子の実験

 「重力子の実用化」とは「人工的に重力を作り出す」ということである。

 そもそも重力は物体同士が引き合う力であり、物体が他の物体に向かって引き寄せ合う現象のことだ。これはアイザック・ニュートンが17世紀に発表した「万有引力の法則」によって初めて体系化された。物体が重力を発生させるためには質量が必要であり、質量が大きいほど重力の影響も大きくなる。また、質量とエネルギーの関係はアインシュタインの特殊相対性理論によって示されたように、相互に変換可能なものだ。


 単純に言えば「重力=質量」であり「質量=エネルギー」なので、「重力=エネルギー」という図式が成り立つ。つまり人工的なエネルギーにより、重力子を発生させることができるようになったのだ。


 「重力子の実用化」を発表した国際素粒子物理学協会(International Association of Particle Physics, IAPP)と重力科学研究機構(Institute for Gravitational Science, IGS)は重力子の単位を定めた。

 「GD/s」

 「重力線量/秒(Graviton Dose/seconds)」の略であり、1GD/sは1㎡の広さに1G(地球の重力)相当の重力子の量を1秒間発生させるという意味である。


 では1GD/sの重力子線を発生させるのにどれだけのエネルギーが必要かと言うと、こちらはアインシュタインの有名な公式「質量とエネルギーの等価性・E=mc^2」より導き出された。

 IAPPとIGSは1GD/sを1㎡発生させるのに必要なエネルギーを「33.3ギガジュール」と発表した。しかし、この数値は変換率100%の話だ。

 現実に於いてどんなエネルギーでも変換率100%というのはあり得ない。一般的に言うと、熱エネルギーから電気エネルギーへの変換(熱発電)で約30%〜50%の変換率。原子力から電気エネルギーへの変換(原子力発電)で約30%〜35%の変換率。太陽光発電で変換率は約15%〜20%。風力発電だと変換率は約30%〜50%程度だ。

 重力子研究者の間では「重力子の変換率は10%未満」だと言われていた。

 わずか1㎡の広さに1G重力を発生させるのに、300ギガジュール。

 現代に例えるならば、新幹線が10時間走行するエネルギーに等しい。それがわずか1㎡で1秒の地球上の重力にしかならないのだ。まだまだ人工重力を常時発動できるまでは遠い道のりと言えよう。


 重力子の実験には、宇宙で重力の影響がないラグランジュポイントに、最新の宇宙ステーションと研究・実験の設備を作らなければならない。さらに十分なエネルギー供給設備も必要だ。科学者や技術者に於いては、人数だけでなく質も重要なのは言うまでもない。

 

 重力子の実験は資金との戦いでもあった。

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