第3話 歳上には違いないけど
わからないまま、
ビルとビルのあいだだ。片方のビルには入り口がなかったし、片方はガラスの扉が閉まっていて、入れなさそうだ。
人がいる気配もない。
正面だからメインストリートというわけではなかった。
心細くなってきた。
その気もちを抱えたまま、先に進んでみる。
道はコンクリートの塀に突き当たっていたが、その塀が切れていて向こうに行く道がある。
その道を行ってみたけど、その先も同じような場所だった。
白いビルに囲まれた、中庭のような空間だ。
窓にはブラインドが閉まっていて、なかがよく見えない。
「大学に来て、ビルがいっぱいあるのと、
それだけ……?
それではわざわざ大学まで来た意味がない。
しかし、このままもっと進んだら道がわからなくなって帰れなくなりそうだ。
菜津子は立ち止まったまま、どうするか決められないでいる。
「ここ、農学部だけど、農学部にご用ですか?」
ふいに声をかけられて、菜津子はどきっとする。
だれもいないと思っていたけど、振り向いて見ると、さっきのブラインドの閉まっている建物の前、植え込みの前のベンチに女のひとが座っている。
小さい目で菜津子を見ている。
髪はハーフアップにしているらしい。まとめ
髪の色は茶色っぽい。染めているわけではないらしい。
歳上には違いないけど、
着ているのはピンクのTシャツ、いや、カットソーというのかな?
濃いベージュのキュロットスカートを
その膝の上にはノートを置き、そのノートの上に薄いノートパソコンを載せている。
横には何冊かの本を重ねて置いていて、菜津子の学校
菜津子が自分を見たのに気づいて、その女のひとは耳からイヤホンをはずした。
答えずに行ってしまうわけにもいかない。
「あの。わたし高校生で、受験生で、大学を見に来たんですけど」
ピンクの服の女のひとは、おもしろそうに首を傾けて見せた。
「大学見るぐらい、いつでも見られるけど」
菜津子はどう反応していいかわからない。その女のひとの顔をじっと見続ける。
「それとも、大学の授業っていうのに、出てみる?」
女のひとは言って、目を細め、唇をゆるめて笑って見せた。
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