第2話 思ったより地味だ

 そうやって体の表面からよけいなものをこすり取り流し取った菜津子なつこは、その次の日、春陽しゅんよう大学に来た。

 家庭教師の先生に、いや、前の家庭教師の先生に、ふだんの大学を見ておいたほうがいい、と言われたからだ。

 オープンキャンパスや模擬もぎ授業はイベントだから、大学も演出する。だから大学に通ってみるとぜんぜん違うということがある。演出の効いてないふだんの授業に行ってみな。受験生に理解できないほど高度な授業はやってない。でも、もし行ってみてそこの授業が半分もわからないくらいなら、その大学のレベルはあんたには高すぎる、ってこと。

 そう言ってくれた先生は、お母さんに

「菜津子の成績が上がらない。むしろ下がった」

と、文句を、というより、「いちゃもん」をつけられてやめさせられた。

 下がったのはその先生に教えてもらっていない科目だった。だから、ほんとうの理由は、別にある。

 お母さんが、夜に家に先生が来ると自分が浮気できなくなると思ったから。

 お母さんの浮気の自由のために、先生は辞めさせられた。

 その先生に言われたと言ってもお母さんは行かせてくれないだろうから、ただ

「春陽大学ってどんなところか、見てくる」

と言って家を出た。

 春陽大は超難関大学として知られている。

 菜津子はこの大学を第一志望ということにしている。進路指導でもやめなさいとは言われなかった。

 合格する自信があるかというと、正直に言えば、ない。

 でも、一度は見ておきたいとは思っていた。

 終業式前で高校は授業のない期間だし、春陽大がまだ授業期間だということはネットで確かめた。

 春陽大の文系農学部キャンパスはきた高狩たかかりの駅の前だ。

 その駅で下りて、歳上のお兄さんお姉さんたちの流れについて行く。

 みんな菜津子より背は高い。それに雰囲気が大人っぽい。

 菜津子は、一年後にはこのお兄さんお姉さんたちの仲間に入るのだ。通うのがここの大学ではないとしても。

 そんなことができるのだろうか。

 高校三年になって、ようやく胸が大きくなってきたという菜津子に。

 細い川の流れと、上から覆う林の木々の下、緩い坂道を上っていく。

 その坂道を登り切る。

 ここがキャンパスなのだろう。

 思ったより地味だ。

 だいぶ、地味だ。

 そっけない。

 これが、超難関大学?

 あちこちにちがあり、並木がある。

 そのあいだに、三階とか四階とか、白いタイルで仕上げた、あまり高くないビルがいくつもある。もっと高いビルもあるみたいだけど、その木立ちにさえぎられて上のほうはわからない。

 菜津子の前を歩いてきたお兄さんお姉さんたちは、その木立ちのあいだや並木道に分かれて行った。

 姿が見えなくなる。

 「え?」

 どこに行ったらいいのだろう?

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