十五話(エピローグ)
「晴乃・・・、晴乃ってば」
私は隣に座る彼を軽くゆすった。
「・・・あれ、ここどこだっけ?」
「ふふふ」
なに寝ぼけてるの、と私。
「そよ風が気持ち良くて眠ってしまった・・・」
「分からなくもないけど、せっかくのハネムーンを満喫しましょ」
私達はオークランドからフェリーで15分程の港町に来ていた。ここ、デボンポートのビクトリア通り沿いは、コロニアル調の歴史ある建物が立ち並び、お洒落な雑貨店やカフェ、レストランが軒を連ねている。
「ねえねえ、晴乃。見て、このお皿の柄可愛くない?お花のデザインがすごくお洒落」
相も変わらず私は、色んな雑貨やカフェが目については立ち止まり、彼をやきもきさせるシーンもあったけれど、ようやく彼が行きたがっていたマウントビクトリアの山頂へと到着した。
オークランド中心部のスカイタワーやランギト島も見渡す事ができて、三六〇度の眺めはとにかく絶景だった。
緑に覆われた山頂には大きなキノコのオブジェが至るところにあった。私達は写真を撮ったり、景色を見渡したり、それぞれがやりたい事をやりたいようにやっていたけれど、やがて気分が落ち着いてくると、キノコが見えるベンチに腰を落ち着けたのだった。
「ねえ、晴乃」
私が徐に呼びかける。
「何?」
私の方を向いて彼が微笑んだ。
「まだ不安感に包まれる時間はあったりする?」
「・・・ああ。そういえばいつの間にか無くなってたね。マジで仕事が忙しすぎて。余計なこと考える暇もなかったよ」
「そっか」
「ねえ、晴乃」
またも私は呼びかける。
「何?」
再び彼も私に向かって微笑んだ。
「・・・どうしてあたしと結婚してくれたの?」
「何だよ急に」
「ふふふ。そうだよね。ヘンだよね、こんな質問」
「もう慣れたけどね」
「そうですか。・・・で、どうしてですか?」
「そりゃあ・・・」
「『そりゃあ・・・』?」
「好きだから。それに尽きるよ」
「・・・」
「え?何?反応なし?」
「ふふふ。ごめんごめん。今のこの気持ちをかみしめて居たくなって・・・。でも、どうして?五年以上も間が空いちゃってたのに」
「そりゃあ・・・、正直に告白すれば気持ちが揺らいだ時はあったよ。でも・・・」
「『でも・・・』?」
「心の奥底で求めてたんだと思う。心のどこかで、似てる人を追い求めていたんだと思う」
「あたしに、ってこと?」
「そう」
「・・・じゃあ、ちょっと意地悪な質問。あたしにとっても、かも知れないけれど」
「はい、何でしょう?」
「晴乃が一番気持ちの揺らいだ相手はどんな人ですか?その人は、あたしの知っている人ですか?」
「・・・そりゃあ」
「ふふふ。本件、『そりゃあ』三回目よ」
「・・・すぐには答えづらい質問をするからだよ」
「そうよね。ごめん。・・・でも、あたし知りたい。絶対に怒ったりテンション下がったりしないから。正直に、教えて」
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