十四話

 晴乃は何も語らなかった。口を開くことができなかった。彼は、自分の気持ちが落ち着かないことに戸惑っていた。

 ふと空を見上げると、遠くの空にヘリコプターが飛んでいる。晴乃の視線は、無心にそのヘリの動きを追いかけていた。


「お従姉ねえちゃん、見たい?確か・・・まだ、見せてなかったもんね」

徐に彼女が言った。まるで囁きかけるかのようだった。

「晴乃、紹介して欲しいって言ってたよね」

本当はね、名前とか訊かれちゃったらどうしよ~って、内心、焦ってたんだ。遥は晴乃に向かって舌を出して微笑むと、バッグから携帯電話を取り出す。



「写真、見せてくれるの?」

晴乃は、心で思っている事と矛盾した発言をする。本当は見たくなかった。しかし、確かめたいという気持ちがあるのも事実だった。



「まだ、好きなんでしょ?」

遥が、画面を検索しながら晴乃に訊いた。

「は?」

何のこと? と、彼は付け足した。けれど、理解し始めている自分の存在も認める。心臓の鼓動が更に加速した。



「お従姉ねえちゃんのこと」

遥は画像一覧を見ているところだった。



 晴乃は、空を仰いだ。運命とは残酷だと思った。いや、運命だけではない、この世のあらゆるもの全てが、時として残酷なものへと変貌する。恐怖と不安感を伴って襲いかかってくる。


 彼はゆっくりと目を見開いた。そこには音は無く、相も変わらずの真っ青な青空と、照りつける太陽。



 終わりなき日差しは

 眩い程

 残酷で



「はい」

 遥は携帯を晴乃へと手渡した。そこには二人の男女が映っている。背後に綺麗な虹がかかっている画像だった。かつて、あの大きな河沿いを歩いている時に撮ったものだ。

 お互いに照れているような表情だけれども、二人とも微笑みを浮かべている。


 二人の内の一人はである。そして、もう一人は・・・。


 彼、澤田晴乃は、西野遥に対して芽生えていた特別な感情の理由を、この時、初めて理解したのだった。

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