十三話

 やがて、ゆっくりと顔を上げると、

「あたしね、そういう後ろめたさはずっと背負っていくつもり。自分でやったことだし、許されようとは思わない。いつか自分もそういう目に合うかも知れないし、覚悟もしてる」

 でもね、

「自分で何もしていないのに、外側から何かを背負うように強制された人って、どうすれば良いのか分からないんじゃないか。最近、そんな風に思うんだ。覚悟すらで

きないんじゃないか、って」


 晴乃の心臓がトクンと跳ねた。何故なのかは、彼もよく分からない。

 

「ずっと前に話した、あたしの従姉のお姉ちゃんのこと、憶えてる?」

彼は、二年前の記憶を辿り始める。やがて、記憶が色鮮やかになって蘇ってきた。

「ああ。新人の頃、お洒落な飲み屋で話してくれた、男の人がキライなお従姉ねえさんだっけ?」

晴乃の訊き方は遥にというより、自分自身の記憶に問いかけるかのような口調だっ

た。


「そう」

遥が網目を掴みながら、ゆっくりと頷く。

「お従姉ねえちゃんは、これからどんな生き方をして行くんだろう。そんなことを考えたりするの」


彼女は、遥か遠くに視線を合わせた。


「やっぱ遥さんは優しいじゃん。他の人の気持ち、考えてるじゃん」

晴乃は、彼女の横顔に囁いた。

「ううん。それは、あたしがお従姉ねえちゃんのこと好きだから」

だからお従姉ねえちゃんには幸せになって欲しくて。と、遥は微笑んだ。

「あ、それでもね」

更に遥の表情が明るくなった。

「男の人が嫌いかもなお姉ちゃんだけど、恋人ができたこともあったんだよ」

艶然えんぜんと微笑んでいるかのように、晴乃には見えた。


「それは良かったね」

晴乃は明るく言ってみせたが、そうした態度とは裏腹に、喉がカラカラに乾いていた。

「あたしが二十歳の時だったから、もう六、七年くらい前かな。珍しくお従姉ねえちゃんが、恋愛話を持ちかけて来たの」

いつも恋の話題に淡白な、あのお姉ちゃんがね。と、遥は付け足した。


「今度の人はこれまでの人とは何か違う。少しヘンなとこもあるけど、自分の弱みをさらけ出して、理解してもらいたいっていう想いが強いの。お従姉ねえちゃん、そんな風に言ってた」

本当に嬉しそうだったよ。と、遥が呟く。


「・・・その遥さんのお従姉ねえさん、今もその恋人とはお付き合いしてるの?というか、もうご結婚された?」

晴乃は訊いた。訊かずには居られなかった。

「ううん」

遥の表情が曇る。

「結局、一年半くらい付き合って、別れちゃった」

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