十二話

 やや間を置いて、

「じゃあ、本当に遥か西の人になってしまう訳か。この関東の地からは」

と、晴乃がポツリと呟いた。

「え?」

思わず訊き返していた彼女だったが、すぐに閃いた顔つきになり、

「ふふ」

と笑った。

「そうなのです。あたし西野遥は、遥か西の人になります」

両手を腰に当て、胸を張りながら言った。

 


 しばらくの間、二人は取りとめのない会話を交わす。話題が途切れ始めた頃、そろそろ行こうか、晴乃はそう言うと、傍らに置いてあった荷物を取ろうとした。

「ちょっと待って、晴乃」

遥が彼の動作を制した。

「どうしたの?」

晴乃は訊く。

「もうちょっと。もうちょっとだけ・・・ここに居ても良い、かな?」

彼女は真剣な表情をしていた。少し緊張しているようにも見える。


「いいけど」

「ごめんね。時間、大丈夫?」

「大丈夫です」

今日は何も予定ないし。と、晴乃は自嘲気味に笑う。

「ふふ」


 太陽の眩い日差しが降り注ぐ。時刻は正午をとうに過ぎていたが、陽が傾くにはまだまだ時間がかかりそうだった。

「会社に入った時から、ずっと思っていたけど」

遥が独り言のように呟き始めた。

「晴乃は話しやすいし、優しい人だよね。何よりも素直だよ」

「そんなことはないです。ひねくれてるよ、俺」

晴乃が言下に否定する。

「いやいや」

彼女は頭を横に振る。

「てか、俺なんかより遥さんの方が優しいし、良い人だと思うけど。ちゃんと人の気持ちを考えてあげられる人だと思うよ」

晴乃は、遥に対する素直な気持ちを、告白した。が、

「いやいや」

と、また勢いよく頭を横に振った。

「あたしは、そんな良い人なんかじゃないです。悪人とまでは、行かないかもだけど」

彼女はきっぱりと言った。


「そうですか?」

「そうです」


遥は、またもきっぱりと言った。

「学生の頃は色々やってたよ。すさんでた時期があったから」

例えばね、と彼女は続ける。

「受験の合間にね、女の子どうしで話してた時に、集まった女の子みんな彼氏が居なかったこともあって、男の子に思わせぶりなメッセージとか送ってた」

他にも色々、と。遥は言った。


「ふうん」

晴乃は、どうということもない風に頷いた。

「当時はノリで楽しんでやってたけれど。今、改めて考えてみると、人の気持ちを踏みにじるような、残酷な行いだったな」

遥は俯いた。

「う~ん・・・。若気の至りってヤツの範疇じゃない?ギリギリのラインで」

晴乃は努めて明るく言った。ところが、彼女は無反応だった。

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