十話

 雑貨屋や洋品店で一通り買い物を済ませると、二人はビル内のレストランで簡単な昼食を取った。その後は、階上のテラスへと足を運ぶ。外で高い所からの景色を見たいという、遥の申し出だった。


「景色すごーい」

遥は無邪気な子供のようだ。

「今日は空気も澄んでるし、眺めは悪くないね。・・・ちょっと寒いけど」

晴乃は両腕を抱え、寒がるような仕草を見せた。

「そう? あたし、このくらいが丁度良いけど」

「左様ですか・・・」


てかさ、と晴乃が続ける。

「西野さんて、身体熱くない?」

「熱い?」

遥が訝しむような顔をしている。

「いや、別に変な意味じゃなくて。前に腕とか一瞬触れた時、やけに温かいなって思ったことがあって」

晴乃は、両腕を左右に振らしながら弁解した。

「そうなんだ。じゃあ、あたし、熱い女なのかも」

彼女はそう言うと、自分の両手を擦り合わせた。しかし直後には、

「ねえねえ、晴乃見て。向こうにスカイツリーが見えるよ。ここから見ても大きいねー」

と、身体の熱い話題はさて置いて、彼女ははしゃいでいた。晴乃は甘んじて、彼女のペースに翻弄されることにした。



「晴乃って、何型?」

徐に遥が訊く。

「ナニガタ?」

「血液型の話ー」

「A型だよ」

訊かれたことに、晴乃は素直に応えた。

「なるほど。あたしはね、AB型なんだ」

だから、

「ごめんね。さっきから話題があっち行ったりこっち行ったりしちゃって。AB型はよく二面性があるって言われてて。そのせいか、今日はその性質が沢山出ちゃってるみたい」

彼女は言う。・・・でもこれはあたし独自の個性かも。全国のAB型の皆さまごめんなさい。と、虚空に向かって両手で拝んでいた。


 そんな彼女の様子に対して、

「いやいや、全然気にしてないよ。てかさ、AB型だけが二面性があるって訳じゃ

ないし。関係ないっしょ」

血液型なんて。と、彼は陽気に笑って見せる。

「ふふ」

ありがとう。優しいんだね。遥が礼を述べた。



「遥さん、引越しの準備は終わりそう?」

晴乃が話題の方向を換える。

「うん。もうちょいってカンジ」

彼女は微笑んだ。

 晴乃は手摺に両肘を突いた。そして、遠くの景色を眺めながら、思案顔になる。余計なお世話なのでは、と一瞬逡巡したが思い切って訊く決意を固めた。

「前にも聞いたけど、遥さんは本当に納得してるの?」

「納得?何に?」

彼女が、訊き返す。

「結婚のこと」

晴乃は隣に居る、西野遥の横顔を改めて見つめた。

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