九話

 新宿駅の南口を出て、横断歩道を渡ってサザンテラス口の方へと真っ直ぐ進む。昼の十一時過ぎ。人の往来が次第に盛んになり始めてきた。

 サザンテラス口を少し出たところに、彼女は居た。その彼女は晴乃の姿を認めると、笑顔で手を振った。

「今日はお付き合い頂き、どうもありがとうございます」

彼女はペコリとお辞儀をした。

「いえいえ。今日は暇だったので」

と、晴乃も彼女に倣う。

「じゃ、行こっか」

西野遥はニッコリ笑った。


 二人はサザンテラス通りを代々木方面に向かって歩き始める。左手にあるスターバックスを通り過ぎ、有名なお菓子屋の角を左へと曲がった。

「もう少しで四年目だね、晴乃」

社会人になってもうすぐ四年目を迎える、という意味だ。

「そうっすね。長いようで、あっという間だった」


 ふと、晴乃は空を見上げる。太陽の日差しが眩しく、暖かかった。しかし、空気はひんやりとしていてまだ肌寒い。

「そちらの仕事はどう?忙しいの?」

右側を歩く彼女が、晴乃を見上げながら訊いた。

「今は落ちついたよ。一ヶ月前は忙しくてマジで死ぬかと思った」

彼は両手を拡げ、ワザと大袈裟に言って見せた。

「どの部署もピークの時は忙しいよね。この間、久しぶりに今井ちゃんに会ったけど、大変そうだったよ」

「そっか・・・。まあ、ヤツなら死んでも大丈夫でしょ」

「ふふ」



 二人は正面にあるタイムズスクエアビルへと歩みを進めていた。今日は、西野遥が四月から九州支社へと異動するため、晴乃は彼女の必要な備品の買い出しに付き合うことになっていた。

「遥さんは、何年目が一番大変だった?・・・もしかしたら、今が、かもだけど」

と、晴乃が訊く。

「二年目だよ」

遥が即答した。

「だよね」

指導してくれる先輩とか、怖かったし。と晴乃は彼女に同調した。

「でもまあ、厳しく指導されて、必死になって仕事したからこそ、ここまでやってこれたって見方もできるけど。最初は自分がどう動いて良いか分からなくて。右顧左眄うこさべんしまくりでしたよ」

晴乃は笑いながら言った。


「ウコサベン?」

遥は首を傾げている。

「ええと、周りの状況や意見を気にしてばっかりいて、自分の意志決定を躊躇うことかな」

すぐさま晴乃が解説を与える。

「晴乃は真面目だよね。頑固なところもあるけれど」

遥はクスクス笑っている。

「やっぱり俺って頑固かな?」

「うん」

「そうすか・・・」

「ふふ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る