七話

「分からない。どうして彼女がそんな風に言ったのか。最後まで理由は分からなかった」

けど、と晴乃の話は続く。

「結果的に、彼女が言っていたことは当たっていたような気がする」

「当たってた、というのは晴乃がその元カノさんに対して満足できなかったってこと?」

今度は遥が晴乃へと問いかける。

「うん」

「どうして?」

詰問調のような遥からの質問。気のせいかこの時の彼女の語気は幾分強く感じられた。

「・・・それは、彼女のことを知れなかったから、かな」

晴乃が寂しげに微笑む。

「勿論、彼女のことは好きだったよ」


だからこそ、

「もう一度きちんと気持ちを伝えた。そしたら彼女は、『こんなあたしで良ければ』って言ってくれたんだ」

「ほうほう・・・。そこで終わればハッピーエンドだったのにな」

今井ちゃんは一人呟くと、足元の砂浜に落ちていた小枝を拾い上げた。

「相手のことを知りたいと思うなら、まずは自分のことを語ろう。これが俺の基本のスタンスで。とにかく、俺は自分のことを彼女に話した」

 また、彼女はそうさせてくれる女性でもあった。と、晴乃は付け足した。



「これは、今だから言えることだけど・・・」

一瞬、躊躇いを見せた彼だったが、意を決したように、

「俺さ、大学生の頃、精神科に通っていたことがあるんだ」

と告白した。

「そうなんや」

 加奈さんは特別驚く様子もなく、ごく自然な反応を見せた。今井ちゃんと遥の二人も、何も言葉は発さなかったが、加奈さんと同じ様な反応だった。



「うまく説明できないんだけど、一度心の中に不安感を抱いてしまうと、それをなかなか振り払えない症状が続いた時期があったんだ。不安に襲われて、軽くパニックに

なった時もあった」

 彼女は、自分が心に疾患を抱いた経緯も含め、自分の抱くコンプレックスや性格の癖などの話を、嫌がることなくずっと傍で聞いていてくれたんだ。と、晴乃は穏やかに語る。


「彼女と話してると、安心できるんだ」

とても、ね。晴乃は言う。

「話す前は勇気が必要だったり、不安が増したりすることもあるんだけど、話し

終えた後は、いつも落ち着きを取り戻すことができた」

でもそれは、と晴乃は彼自身の気持ち確かめるように、語り続ける。

「その彼女のことが本当に好きだったからだと思ってる。本当に好きな人に話す

からこそ、安心感の価値が更に高められる、と」


 辺りはしんと静まり返った。波音さえも無くなったかのようだ。火を囲む同期

の歌声が、遥か遠くに聞こえる。

「そんなに好きだったのに、どうして?」

 どうして、別れちゃったの? 西野遥は、寂しげな笑みを浮かべながら、晴乃に訊いた。

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