六話

キャンプファイヤーの周りで歌い続ける会社の同期と、加奈さん、今井ちゃん、遥、そして晴乃の四人が自然と2つのグループに別れるかたちとなった。彼ら四人は、波打ち際の砂浜に並んで座っていた。

「じゃあ、次は晴乃の番やで」

加奈さんが晴乃に水を向ける。

「自分の恋愛話すか・・・」

晴乃は腕を組み、思案顔を作った。

「いやいや、そんな難しく考えることでもないだろ」

すかさず今井ちゃんが突っ込む。

「ですよね」


一瞬、遥と目が合った。ところが、彼女はすぐに晴乃から目を逸らした。

「ええと、前に付き合ってた人の話になるんだけど」

「・・・てことは、晴乃は今は彼女居らんのやっけ?」

「はい、そうです」


晴乃の返答に対し、ごめんごめん、出だしから話の腰折っちゃって。話続けて。と、加奈さんが場を取り繕った。

「彼女、面白い人でさ。うまく表現できないんだけど。変わってるというか、不思議な一面があって、俺にはそこがとても魅力的だった」

「可愛かった?」

またもすかさずの今井ちゃん。

「もう!今井ちゃんはすぐそれなんやから」

加奈さんが今井ちゃんを窘める。この日の今井ちゃんは、加奈さんに注意されてばっかりだった。

「自慢に聞こえてしまうかも知れないけれど、客観的に見ても整った顔立ちだったと思うよ」

「マジかよ? 写真とか残ってねーの?」

今井ちゃんは興味津々のご様子。

「こらこら!」

間髪入れず、加奈さん。

「ごめん、写真は残ってないんだ」

晴乃は穏やかに笑った。


 あたし・・・、とここで遥が突然呟いた。一瞬、場が静まり返り、三人が彼女に注目する。

「あ、ごめんさない。何でもないです。話を続けて。晴乃」

遥の様子が若干気になりはしたものの、彼は再び語り始めた。

「出会いはバイト先だった。個別指導塾の講師バイトで、彼女は先輩講師だった」

先輩と言っても、彼女の方が先に講師を始めていただけで、歳は一緒だったんだけどね。晴乃は補足する。

「ほぉ。それで」

今井ちゃんが先を促した。

「帰り道、というか帰りの電車か。それが、途中まで一緒でさ、出勤日も殆ど同じだったこともあって、話していく内に段々と親しくなっていったんだ」

晴乃は遥か先、暗闇の海の向こうを見据えていた。


「ほぉほぉ。ま、お決まりのパターンだな」

今井ちゃんが偉そうに腕を組みだした。

「そうね。お決まりのパターンってヤツですよ」

「で、晴乃から気持ち伝えたの?」

加奈さんが晴乃に訊く。

「うん」

晴乃はとても丁寧に頷いた。でも、

「最初は断られたんだ」

晴乃は言った。

「『本当にあたしのことが好きなの?』って」

それにこうも言われたな。

「『あたしと付き合っても、きっと晴乃は満足しないよ』って」


「ほぉ~・・・。なんでだ?」

今井ちゃんが素直な疑問を口にした。

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