第三章
一話
晴乃が私の名前を呼んだ。
告白なら、と彼は続ける。
「幾らでも聞くからさ」
涙を拭けよ。と、優しく微笑んだ。
私は、その場に立ち尽くすしかなかった。彼は私の背中に右手を回すと、ゆっくり私を抱き寄せた。
気が済むまで話して。全部。と、晴乃が私の耳元で静かに囁く。彼が私の手を取り、私達は歩き出す。
何処へ行くの?と敢えて訊いたりはしない。身を委ねる覚悟で、全てをさらけ出す覚悟で、私は彼との
「最上の理解者だよ」
再び、晴乃が私の名前を呼ぶ。前を見つめながら、彼は言った。
「・・・理解者? あたしのこと?」
彼は、深く頷く。彼のそんな横顔もすごく懐かしかった。
「また何か難しいこと考えてたんでしょ?」
晴乃は苦笑い。
「そんな深く考え込まなくてもいいんだよ。って、あたし何度も晴乃に言ったじゃない」
微笑みながらも、涙声の私。
沈黙が、私たちを包む。けれど、今度のそれはとても優しくて、いかなる不安をも払拭してくれる。
「自分が愛する理解者こそが、最上の理解者ってことさ」
私の忠告を無視する彼の横顔は、真っ直ぐと前方を見据えていた。
「・・・ふふふ」
「いや、そこ笑うとこじゃないし。特に今のは俺的にはマジで真剣な意見なんだけど」
「ふふふ。ごめんごめん。晴乃、変わらないなって思って」
後でゆっくり教えてね。晴乃が考える理解者ってどんな人なのか。私は彼の横顔に語りかけた。
「話、長くなるけどね」
晴乃がおどけた仕草を見せる。
「大丈夫。慣れてるから」
私もおどけてみせる。
唐突に不思議な話を切り出す彼だったけれど、彼なりに話の道筋をきちんと見据えた上での発言であるということを、私は知っている。
だから私は、次に彼が発言したことに対しても特に驚いたりはしなかった。
今度は晴乃が私の横顔に一瞥をくれると、
「克服しよう」
彼は、またも私の名前を呼ぶ。
「過去を」
「え?」
私は訊き返していた。すると彼は、ワザと間を持たせた後で、言った。
「俺が克服させてみせる。『消えない傷』を少しでも癒してみせるよ」
最上の理解者のために。と、更にそう言い添えたのだった。
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