十四話

「分かった!独り身の寂しい俺に紹介してくれるってこと?」

晴乃は、遥の調子に合わせることにした。

「ううん。そういうことじゃなくて」

「なんだ・・・」

がっかりする素振りを見せる。



「ちょっと距離的にも遠いし。お従姉ねえちゃん、今は関西で働いてるから」

「そいつは残念・・・。さすがに関西は遠いな~」

「とにかく、あたしに優しくて。可愛がってもらってます」


一呼吸を置き、それに、と遥が続ける。


「性格だってすごく良いの。多分」

「・・・多分? 優しい人なのに、性格が良いかどうかは不明確なの?」

晴乃は思わず笑いそうになった。

「うん、そうなの」

と、彼女もクスクスと笑っていた。


「優しいのはホントだよ。『多分』って言ったのは、ちょっと別の理由からで・・・」

彼女の歯切れが悪くなる。

「兎にも角にもあたしが言いたかったのは、いくら美人さんで優しい人だからって、必ずしも幸せになれる訳ではないんだな、ってこと」

分かりづらくてごめんなさい。と、彼女は付け加えたのだった。



「・・・もしかして、そのお従姉ねえさん、何か重い病気でも?」

と言いかけて、彼は、先ほど遥と彼女の従姉が、夏に北海道旅行へ行くと言っていたことを思い出した。案の定、彼女は首を横に振る。

「ううん、元気だよ」



 遥の話の意図が掴みきれない晴乃であったが、黙って彼女の話に付き合うことに決めた。そもそも今日は、遥の話に付き合うためにここへやって来ている。


「原宿とか街中を歩いてたら、男の人に声をかけられること間違いなしだと思うの。実際、何度もスカウトされてるし。・・・あ、ごめん。男の人限定じゃなくて。女の人からも声かけられてた」

いつも無視して通り過ぎちゃうんだけどね。相手が男の人だった場合は。と、遥が言う。


「へえ、そんなに綺麗な人なんだ。写真とかある?見てみたいんだけど」

晴乃に言われ、彼女は携帯を取り出し指で操作しようとした。ところが、ふと我に返ったような表情で、

「写真はちょっとまた今度で良い?」

とお茶を濁されてしまった。

「そうスカ・・・。それで、世の男達が放っとかないような美人さんが、どうして幸せになれないんスカ?」

と晴乃が水を向けてみる。


「それは・・・」

またも彼女の歯切れが悪くなった。


「ごめん、話したくないんだったら無理しなくても・・・」

そう言う晴乃を途中で制し、

「いや、晴乃には知ってもらいたいから、話す」


 遥は言った。気分の昂揚を鎮めるため、遥はゆっくりと深呼吸をする。どのように説明したら良いかを逡巡している様子にも見えた。


「一言で言ってしまうと、お従姉ねえちゃんは、男の人が嫌いなんだと思う」

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