十三話
店内には有名なジャズの曲が流れている。緩やかな独特のテンポが特徴で、何年か前に大ヒットを記録した曲だった。曲調が店の雰囲気とぴったり合っている。
静かな店で良いな、と、晴乃は頭の片隅でこの店のことが段々と好きになってくる自分を認めた。
「なんだか、少し意外」
遥はぽつりと言った。
「あんまし晴乃っぽくない意見」
彼女はうっすらと笑みを浮かべた。しかし今度のそれには、寂しさは同居していなかった。
「そう?」
晴乃は問いかける。
「うん」
彼女はコクンと頷く。
「晴乃は優しいから、きっとあたしの味方になって、励ましの言葉か何かをかけてくれるのかな、って」
「ごめんごめん、決して遥さんの敵になった訳じゃないから」
慌てて取り繕いながらも、遥のことを自然に遥さんと呼んでしまった事に気づき、余計照れくさくなった。
「ふふ。分かってるよ」
しばらく晴乃は黙っていた。落ち着きを取り戻すと、一人静かにグラスを弄んでいた。
でも、と不意に遥が晴乃を真っ直ぐに見つめながら、口を開く。
「新鮮だった」
彼女は微笑んでいた。
「少しは落ち着いた?」
晴乃が投げかける。
「落ち着いた」
遥が投げ返す。
全然関係のない話、してもいい? と彼女が前置きをすると、
「・・・いや、ごめん。全く関係のない話でもないのだけれど」
と、自分自身に言い聞かせていた。遥の意図は分かり兼ねたが、
「いいよ」
晴乃は頷いた。
「ありがとう」
遥が一呼吸を置く。グラスの中身を一気に飲み干すと、梅酒のソーダ割を新たに注文した。
「あたしね、仲良しなお姉ちゃんが居て」
お姉ちゃんといっても、従姉のお姉ちゃんなんだけど。と、彼女は付け足す。
「体形すらっとして、目もぱっちりしてて鼻筋も良いカンジに通ってて、とにかく肌が白いの。とっても美人さんで、街中を一緒に歩くと、あたしなんか恥ずかしいくらいで・・・」
今度紹介してよ、と軽口を叩くのを堪える。晴乃は、今はそんな雰囲気ではないと感じていた。そして、それと同時に心の中で何か懐かしいような感覚に包まれていた。
「それでね今度の夏に、一緒に北海道へ旅行しようかって、話もしてるんだ」
「なるほど。それで、その超絶美人のお姉さんがどうしたの?」
晴乃の指摘で、彼女は我に返る。
「ごめんごめん。あたし一人で盛り上がっちゃってました」
要するに、あたしの自慢のお姉ちゃんなのです。従姉だけど。と、彼女は懲りずに続ける。
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