十二話
「今日、目が少し腫れてたのも、元気がなかったのも、やっぱりそのせい?」
晴乃が遥の横顔を窺う。
「うん」
彼女は頷いた。視線は下を見つめたままだ。
「あたしって子供だよね。ホント」
「・・・そんなことはないよ」
晴乃は咄嗟に口にしていた。他に言葉が思い浮かばなかった。
「こういうことは、知らないままの方が良いんだよね」
きっと、と彼女は付け足した。
「・・・そうかもね」
しばらくの間、二人は沈黙した。遥は、黙ったまま両膝の上に手を添えている。
「彼氏さんは、社会人?」
晴乃が先に沈黙を破る。
「うん」
「そっか。社会人は何年目?」
「二年目。あたしの一コ上だから・・・、晴乃と同い歳だよ」
遥は顔を上げ、どうしてそんなことを訊くの、と言いたげな顔をしていた。そんな彼女の様子に気付いた晴乃が口を開く。
「あ、別に深い意味はないんだけど・・・、ただ」
「ただ?」
「会社の先輩とか上司誘われたりしてさ、渋々行くことになっただけかもよ。二、三年目だったら断りにくいだろうし。目上の人のお誘いって」
晴乃は、自分なりに、致し方がなかったと思われる可能性を提示した。ところが、彼女はうっすらと寂しげな笑みを浮かべながら、
「それならまだ、自分を納得させられるんだけれどね」
と、顔を下げたまま、言ったのだった。
「男の人が、そういう気持ちになってしまうって、頭では分かっていたんだけど。でも、いざ自分の彼が、そういう所に行ってるって知ってしまうと、正直ショックだったな。かと言って、いつも身体ばかり求められて、それを受け入れるのも、なんだか悲しいし」
遥は喋り続けた。胸の中でつかえていたものが、少しずつ溢れ出すかのようだった。
男側の気持ちも分かるからこそ、晴乃は発言に躊躇した。彼女にかけてやるべき言葉が出てこない。勿論、その場しのぎな優しい言葉を投げかけてやることもできる。例えば、一時の気の迷いだったんだよ、とか、きっと興味本位だったんだよ、と。
しかし、晴乃はそういう類の言葉を彼女にかけたくはなかった。自分の思う正直な気持ちを伝えることで、彼女と自分を納得させることができると思った。
「受け入れてあげるべきだと思う」
その事に関しては、と晴乃は思い切って言った。
「・・・」
意外だった。遥はそんな表情をしていた。
「時間は、かかるかも知れないけど」
彼は、更に付け加えたのだった。
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