七話

「こういうところで出会ってさ、恋人とかっていう関係になれるわけ?」

晴乃は、素直な疑問を口にした。

「良い人と巡り合えればね。私も飲み会がきっかけで付き合ったことあるし」

彼女はにっこりと笑ってから続ける。

「でも、本気で相手を探すんだったらアプリに登録して出会うコのほうが多いかな。こういう飲み会は、知り合いを増やす意味で良いカンジにゆる~く楽しく飲めれば良いのかも」

少し酔っているせいか、頬を赤らめていた。


「なるほどねー。俺はまだアプリには手を出したことないな。キョウカさんは、飲み会でのたった二、三時間の会話で、相手がどんな人だか分かるの?」

「どうだろうね。そんな短時間で全てを知るのは勿論無理だろうけど・・・」

京香は一旦言葉を区切り、俯き加減になる。この一瞬の間の意味を、晴乃は理解することができなかった。

「フィーリングかな。この人面白そうとか、良い人そうだなとか。そういうのは短い時間でもピンと来るかも」

なるほど、と晴乃は頷いた。

「だから、その後に飯とかに誘われると、行ってみようかなって気になるのか」

「そうそう。その時に相手のことをもっと詳しく知れるしね」



 ふと、晴乃は前に座る敏也と茜の姿を見つめた。彼らは、学生時代の思い出話に花を咲かせているようだった。晴乃は心の中で、苦笑いを浮かべる。ここでまた、考え過ぎの癖が出ていたからだ。初対面の人間、しかも女の子に対し、どこまで自分を開放すれば良いのか。どのように自分をさらけ出せば良いのか。必死になって思考を巡らしている自分の存在に気付く。

 何を喋れば相手を笑わせ、場を取り持つことができるのか。次第に、気を使う、という方向へ思考が遷移して行った。


「飯って何を食べに行くの?」

「え?」

京香はきょとんとしていた。気を使う時、少し的のずれた発言をしてしまう、ということも彼は自覚していた。

「いや・・・、どういうとこに食いに行くのが良いのかなって。例えば、洒落たバーとかさ。その、今後の参考にしようと思って」

晴乃が懸命にフォローする。

「ああ。どこでも良いよ。普通の居酒屋でも。勿論、お洒落なところだったらポイント高いけどね」

彼女が微笑んだ。


 しばしの間、晴乃と京香の間に沈黙が続く。晴乃にとっては気を使う沈黙であった。話題を探すも、こういう時に限って見つからない。不思議なものだ。話したい時は次から次へと出てくるのに。


「サワダ君てさ・・・、」

徐に彼女が口を開く。

「あ、はい?」

少しぎこちない応答。

「モテるでしょ?」

「え? どうして急に?」

思いもしなかった内容。笑顔を浮かべつつも、晴乃は反応に躊躇した。

「あはは。カワイイねー。照れてる」

京香がからかう。晴乃はただ、はにかむしかなかった。

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