五話

 雨粒がバスの窓に勢いよく当たる。その音につられて、晴乃は窓の外の世界に目を向けた。気付くと、バスは既に高速道路に入っている。平日の昼間の時間帯ではあったが、道は混んでいた。

「晴乃の過去の話も訊かせてくれよ」

今井ちゃんの不意打ち。テンポを少しずらして、

「良いよ」

と、窓の外を見たまま答える。

「梅雨が明けたら、キャンプでも行くか。同期のやつらで」

「良いね」

晴乃は真っすぐ前に向き直った。

 

 まあ、と喋りながら晴乃は前座席の背もたれを見つめる。

「男は未練タラタラな生き物だよ。過去に対して。所詮は自己満のロマンチストだね」

「何だその纏め方」

今井ちゃんは笑い声をあげた。

 



 何かを貫くような、爽快な電子音が鳴った。HatTrick。台の上部にあるディスプレイに、その文字が華やかに流れる。

「敏也スゲーな。三本ともブルじゃん」

晴乃は感嘆の意を称えた。

「まあ、当然だろ」

敏也が当たり前のことのように呟く。

「相変わらずチャラいな」

その言い方、と晴乃は笑みを浮かべながら付け足した。


 とある日の定時後、晴乃は会社の同期と数人で、新橋にあるダーツバーに来ていた。続いて晴乃が三投する。

「初心者にしてはまあまあじゃん」

宏和が画面を見ながら言った。

「そいつはどうも」

画面にはLowtonの文字が表示されていた。

 それから、カウントアップやクリケットなど数ゲーム行った。晴乃は、カウントアップの定石はブルを狙うことだ、と敏也から教わった。投げ方の矯正も受けると、次第に矢が的の中央に集まるようになってきた。

「晴乃もマイダーツ買えよ。練習すればうまくなりそうだしさ」

啓吾が自分のマイダーツを晴乃に見せる。

「検討させて頂きます」

 そう言うと、晴乃は啓吾のマイダーツを手に取った。

「あ、こっちの方が店にあるやつより重い」

「重い方が投げやすいよ。店に置いてあるのは軽すぎる」

「フライトも洒落てるなぁ」

「これは好みだね」


 啓吾はテーブルの上にあるグラスを取り、コーラを一口飲んだ。

「そろそろ時間だし、行くか」

敏也が晴乃、宏和、啓吾に呼びかける。

「おお、もう時間か〜。店どこだっけ?」

宏和が敏也に訊いた。

「すぐそこの居酒屋。七時半から八人で予約しておいた。ありきたりのチェーンだけど、安っぽくないし女子受けもそんなに悪くないぜ」

敏也が店の名前を告げると、

「おお。なかなか良いチョイスじゃん。流石、名幹事」

宏和は勢いよく立ち上がった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る