十二話
ここで、遥の話が一段落する。すかさず口を開いたのは今井ちゃんだった。
「だってよ、晴乃」
顔にはかすかな微笑みを湛えている。それから、
「ていうか、遥さんて結構語る人なんだな〜。今日でまた新たな一面を知ってしまった」
と、遥の方に首を向けた。それに対し、
「せやで。遥は語る時はメッチャ語る子なんやで」
と、加奈さんが今井ちゃんの方に顔を向ける。
それにしても、と今井ちゃんが口を開く。
「不思議な人だったんだな。晴乃の元カノさんは」
少しの間があって、
「あたしの彼も不思議な人、というか変わっている人だけど、自分のことは結構話す人だから」
遥は浜辺に押し寄せる波を見つめながら、一人と呟いた。
「そのうちもっと素敵な不思議ちゃんが見つかるって」
加奈さんが晴乃に笑いかける。
晴乃は口元を少し緩ませると、ありがとうと一言礼を述べた。
かつて交際していたその彼女について、心の中では、不思議な人というよりちょっと変わっている人だったかな、とそんな風に晴乃は感じていた。うまく説明することはできないが、『普通』の女の子とちょっと違う。非常識だとか無礼だとか言った類ではい。いや、むしろ人一倍礼儀正しい。そんな一面もあるのが彼女の特徴だったのだ。
年頃の女子が持つべき佇まいや感性について、若干欠けているような。そんな印象だった。その代わり、『普通』の人が背負うべきではない、何か心の負荷のようなものを抱えているように思えてならなかった。
結局、その彼女は、最後まで具体的なことは何一つとして語らなかった。ただ時折、晴乃にその片鱗を覗かせるだけ・・・。
理解者、か。晴乃はアクセルをゆっくりと踏み込み、その意味を考える。彼は頭の中での整理を終え、ふうっと静かに溜め息をついた。
理解者とは、相手のことを分かってそれで終わる者のことではない。自分の中で、この人はこういう人間なのだと定義付けを行い、それっきりで相手に興味を無くす者のことではない。
理解者とは、相手のことを想い続け、分かろうとする努力を続ける者のことである。自分の中で定義付けされた相手の特徴を、日々更新し、受け入れることのできる者のこそが、理解者である。
これは、晴乃が社会人になって西野遥という女性に出会ったことで、初めて得られた気づきとなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます