八話

「つなぎたいから、かな」

「つなぎたい?」

遥が首を傾げる。

「そうそう、つなぎたい。つまり、つなぐってこと」

「そうなんだ・・・」

晴乃は言いたい事は言ったものの、遥は要領を得ない様子。慌てて説明を試みると、

「あ!」

と遥が声をあげた。

「そう言えば就職活動してた時に、説明会で『つなぐ』って聞いたことある」


 大学三年生の夏休み。晴乃は東京ビッグサイトで行われる合同企業説明会へと初

めて足を運んだ。これが、彼の就職活動のはじめの一歩だった。

 この時は、まだ漠然とした気持ちで会場内に足を踏み入れた。そもそも社会にはどのような業界や仕事が存在するのかさえ、晴乃はよく分かっていなかったのだ。


「今の技術ってすごいよな」

晴乃が喋り始める。

「AIとか、ゲームとかさ。映像もメッチャ綺麗になって、よりリアルな表現ができるようになってきてる。もう実写とゲーム画面の区別がつかないよ」


遥が同意するように晴乃の方に顔を向けた。


「そうだね。携帯にもどんどん色んなアプリができてるし。ゲームだって、本当にそ

の中に世界があるみたいだよね」

あたしは、ゲームってあまりやらないけれど。遥が付け足した。

「そうなんだよ。ネットやゲームはリアルになりすぎて、現実とは違う、一つ一

つの別の世界が確立されつつあると思うんだ」


 晴乃は自分の考えを整理するために、少しの間を設ける。遥は不思議そうに彼の

ことを見つめた。


「つまり、リアルになることによってバーチャル世界は完成に近づきつつあって、

現実世界との距離が生まれつつある、と思うんだ」

「お、晴乃クン熱くなってきたね」

茶化しつつも、遥は晴乃の話に耳を傾き続けていた。


 休憩時間の最中、周りの同期達の会話は最高潮に達している。しかし、晴乃と

遥を包む空間だけは、ざわめきのボリュームが徐々に絞られていった。


「だから俺は、ITのチカラ(技術)でバーチャルな世界と現実との世界の距離

をつなぎ合わせたいんだよ。つなぎ合わせていたいんだ。それぞれのバーチャル

な世界が、独立して一人歩きしないように。

 もっと言うと、バーチャルな世界と現実世界をごっちゃにしないように、ITのチカラを進化させて行きたいんだ」


 晴乃が乾いた上唇をなめると、遥の横顔をちらっと伺った。それに気づいた遥が、

晴乃と一瞬目を合わせた。

「うーん・・・。なんだか難しくて、途中から違うこと考えちゃってた。ごめんね」

「マジで話さなきゃよかった」

晴乃は少し不貞腐れたように俯いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る