六話

「明るくてカンジの良い子だよな」

晴乃が素直な感想を述べる。


「何だよお前。あんまし興味なさそうだなー」

今井ちゃんは勢いよく晴乃の右肩を叩いた。

「いてーよ」

またも少しの間があり

「彼氏居んのかな?」

と、今井ちゃんが呟く。


「さあ、分からないな」

「晴乃さ、今度それとなく訊いといてくれよ」

「自分で訊けよ」

「だって恥ずかしいじゃん。居なかったらマジで俺と付き合ってもらおっと」

「落ち着きなよ。展開が早過ぎっしょ」


 今日のこの飲み会を西野遥から断られた時の、今井ちゃんの残念そうな顔が晴乃の頭に中に思い出された。

「顔がメッチャ好みなんだよな〜。小柄だし、あの背の低さもカワイイよ。男からすると、丁度良い高さっていうかさ」


そんな今井ちゃんは、どこかあさっての方向を向いている。

「・・・そうすか。でもそれほどのカワイさだったら、きっと彼氏さんが居そうじゃない?」

一人や二人さ、と晴乃は少し意地悪を付け加えてみる。

「一人や二人ってなんだよ。西野さんは二股するような子じゃない!」

今井ちゃんが真剣な面持ちで否定する。

「落ち着けって。言い方の例えだって」


 西野遥が、何故二股するような女の子ではないと分かるのか、その心理について晴乃は釈然としない気持ちだった。入社前の内定者懇親会で、数回顔を合わせていたとはいえ、まだ入社してから一カ月弱の仲だ。お互いがどんな人間なのか、まだよく分かっていないはずだし、未だに会話をしたことのない同期だっている。

 その一方で、今井ちゃんが西野に対してそう思いたい、という気持ちも晴乃には察することができた。またいつもの考え過ぎかな。晴乃は思った。彼自身、若干の人見知りであることを認識していたし、そのことが、人と親密になる速度をより緩やかにしているということにも気づいていた。


 晴乃がふと顔を上げると、敏也、啓吾、孝也の三人が、吉原さんと加奈さんを取り囲むようにして座敷に腰を下ろしている。何やら楽しそうに話していた。

「今井ちゃんと話してると、何だか懐かしくなるわ」

晴乃が話題の方向を少し変えた。

「ん? 何で?」

西野遥清純論の準備で、より熱くなりかけていた今井ちゃんが肩透かしを食う。

「昔、バイト先で一緒だった人に似てるからさ」

「ふうん。晴乃って何のバイトしてたん?」

「塾の講師。個別指導の」

「塾講かー。俺もやってたぜ。集団指導の方だったけど」


今井ちゃんはそう言うと、テーブルの上の呼び出しボタンを押す。すぐに店員がやって来ると、今度は焼酎を注文した。

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