四話
晴乃は情報関連の会社に就職していた。新入社員は理科系出身者が大半を占めており、文化系出身だった晴乃にとって、コンピュータの知識やパソコン操作は皆無に等しい。理科系出身だった遥に、彼はよく助けられた。
それでも晴乃が情報系の会社を選んだのには訳がある。学生時代、彼は自身の経験や就職活動、自己分析を通して自分の希望や気持ちを精査し、ITと科学の力を融合させて『遠い』を『すぐ近へつなぐ』という夢を抱くようになったからだ。
「晴乃ってさ、ホントに文系だったの?」
研修の休憩時間だった。遥が晴乃に問いかける。
「そうだけど。・・・何で?」
「なんか文系に見えなくて。理屈っぽいとこあるもん」
「両親が理系だったからかな」
「そうなんだ。じゃあ、そのせいかも」
自分のPCの画面を見ながら、隣に座っていた遥が納得顔で呟いた。少しすると、入社同期の今井ちゃんが晴乃の近くにやって来た。
「よう澤森クン、お疲れ」
「いやいや。俺のみよじ澤田だから」
晴乃が笑いながら応じる。
「ははは、同じだよ。澤森だろうが澤田だろうが」
「いや、同じじゃねーよ。てか、いい加減ワザと名前間違えんの止めろよな」
晴乃はそう言い放つと、で、と続ける。
「何か用?」
「いや。別にこれといって用はないんだけどさ」
遥も晴乃の隣でクスクスと笑っている。
「は?」
晴乃は笑いながら、今井ちゃん相変わらずめんどくさいわ、と言った。
「嘘うそ。いや実はさ、今日研修終わったら吉原さんとか孝也とかと飲みに行くんだけど、晴乃もどう?」
「良いじゃん。行く行く」
晴乃は快諾した。
「良かったら西野さんもどう?」
今井ちゃんが遥にも水を向ける。
「ごめん。あたし、今日は大学の頃の友達と約束があるんだ」
「そっか、残念」
「また今度行こうね」
一瞬、今井ちゃんは残念そうな顔を作ったが、すぐに
「じゃあ晴乃、定時後な」
と片手を上げて自分の席へと戻って行った。
「今井ちゃんて、面白い人だね」
遥が晴乃の横顔に笑顔を向ける。
「うん。どこかふざけてんだけど、ああ見えて実は根は真面目なヤツかも」
「そうなんだ」
遥は頷くと、前へと向き直す。研修を担当する講師が部屋へと戻ってきた。休憩時間は終わり、プログラミング講座が再開した。
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